てんかんとは

てんかん

てんかんとはどのような病気なのか、全体像を簡単にご説明します。それぞれの具体的な内容に関しては、少しずつ詳細を解説した記事を追加していく予定です。

てんかんとは

てんかんと聞いてみなさんはどのようなことをイメージするでしょうか?
突然泡を吹いてけいれんする病気、というイメージの人が多いのではないでしょうか。もしかすると電車の中で発作を起こした人に遭遇したことがある人もいるかもしれません。しかし、そのイメージはあくまでてんかんの一面に過ぎません。

てんかんは、さまざまな原因でもたらされる慢性脳疾患で、脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作を主徴とし、それに多種多様な臨床症状および検査所見を伴う

Gastaut H 1973

医学的には上記のように定義されており、概ねこれが世界保健機構(WHO)の定義となっています。その後国際抗てんかん連盟(ILAE)によって実践的な定義の改訂が行われていますが、上記の定義がてんかんの本質を最もよく表していると思います。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、重要なポイントを書き出すと以下の通りです。

  • 原因はさまざまである
  • 脳の神経細胞が過剰に興奮する
  • 慢性の病気であり、発作を反復する
  • 症状はさまざまである

これでもわかりにくいと思いますのでもっと簡単に言い換えると

原因によらず、大脳の一部の細胞が勝手に(電気的に)興奮して、繰り返し発作(または脳波異常)を起こす慢性の病気

ということです。興奮しやすい脳細胞がどこかにいて、それが繰り返し勝手に興奮することで発作症状を出したり、発作にならなくても脳波異常を起こしたりします。電気的な興奮は周囲の脳に広がって行きますので、勝手に興奮する脳細胞の位置によって発作症状はさまざまで、興奮の広がりが一部分にとどまるのか、脳全体に広がるのかによっても症状は変わってきます。

てんかんの頻度

100人に約1人がてんかんを持っていると言われており、決してまれな病気ではありません。発症率でみると乳幼児と高齢者で発症する方が多く、有病率と言われる「病気を抱えている人の割合」はおよそ0.5-1.0%程度です。

100人に1人というと、だいたい学校の1学年に1人はてんかんのお友達がいるくらいの頻度になります。

てんかんの症状(発作)

てんかんの定義でお話したように、てんかんの症状はさまざまで、何でもあり、と言っても過言ではありません。

電気的な興奮が脳の一部分だけにとどまっている場合は「焦点起始(または部分)発作」と呼ばれ、基本的に意識は保たれている状態で体の一部分だけがピクピクしたり、気持ち悪くなって吐いてしまったり、突然怖くなってバタバタ体が動いてしまったり、面白くもないのに突然笑ったり、多彩な症状が見られます。

焦点起始発作は電気的な興奮が周囲の脳に広がって行きますので、徐々に発作が大きくなり、脳全体を巻き込んでくると次第に意識を失ってしまい、時には全身のけいれんになることもあります(焦点起始両側強直間代発作または二次性全般化発作)。

一方、脳の全体がいきなり一気に興奮する場合は「全般(起始)発作」と呼ばれ、基本的に意識は失われ、全身の強直やガクンガクンといういわゆるけいれん、突然意識を失って動作を停止させる欠神発作、突然の筋肉の収縮を起こすミオクロニー発作などがあります。

てんかん発作は、基本的に同じ場所から電気的な興奮が生じて同じように周囲に興奮が伝わるため、基本的には毎回同じような症状を起こします。同じ症状を繰り返す、という時にはてんかん発作を疑います。

ただし、てんかん発作は1人につき1種類、というわけではなく、複数の発作型を持つ方も多いので、てんかん発作かもしれないと思ったらスマホでビデオを撮影したり、症状をメモするなどして主治医に相談してみましょう。てんかん専門医でもてんかん発作かどうか悩ましい症状というのは多いのですが、概ね発作らしいのか発作らしくないのかの判断はつけられます。

てんかんの種類

てんかんの原因はさまざまであると書きましたが、脳腫瘍や脳梗塞、先天性の脳構造異常、脳炎・脳症、代謝異常症など、明らかな原因によって引き起こされるてんかんと、明らかな原因がはっきりしないてんかんがあります。明らかな原因がある場合は、その原因の部位によって「前頭葉てんかん」「側頭葉てんかん」「後頭葉てんかん」などと病名がついていきます。

一方で明らかな原因がはっきりしないてんかんは「素因性(特発性)てんかん」と呼びます。MRIでも明らかな異常は認めず、代謝疾患などてんかんの原因となるような基礎疾患も認めないものを指します。しかし近年、これらはてんかんに関わる遺伝子異常によって引き起こされることが分かってきており、てんかん分類も大きく変わってきました。遺伝子異常と言っても、同じ遺伝子でも異なるてんかんとして発症したり、てんかんを発症しなかったりします。遺伝子が原因だからと言っても遺伝性があるとは限りません。

素因性てんかんでは年齢ごとにてんかんのタイプに特徴がありますので、以下にその特徴を簡単に説明していきます。

新生児期・乳児期のてんかん

この時期のてんかんは、予後(発症後の経過)が非常に良いか悪いかのどちらかのてんかんが多いという特徴があります。

良性家族性新生児けいれんや良性乳児けいれんは、発作は多いのですが薬で容易にコントロールでき、脳波異常も伴わず半年〜1年程度で治療も終了でき、基本的に後遺症は残しません。家族に同じ病気を持っている人が多く、家族性(遺伝性)があります。

そのほかは大田原症候群を始めとする発達性てんかん性脳症(乳児期早期てんかん性脳症)やウエスト症候群(点頭てんかん)といった、発達の遅れを伴い治療も難治に経過する、いわゆるてんかん性脳症が多いのもこの時期です。熱性けいれんと区別の難しいドラベ症候群(乳児重症ミオクロニーてんかん)も乳児期に有熱時のけいれん重積(長時間のけいれん)で発症します。

これらの難治のてんかんは複数種類の薬を使って治療が必要ですし、発達に関しても療育的な介入が必要になることが多いので、長期にわたって医療機関に通院する必要があります。

ただし、ウエスト症候群に関しては、早期に適切な治療をすることにより治癒することもあります。

幼児期・学童期のてんかん

この時期に発症するてんかんは比較的予後の良いものが多いです。

寝入りや寝起きに顔の片方だけがピクピクして時にけいれんを起こすローランドてんかん、寝入りに嘔吐と意識障害を起こしときおりけいれん重積を起こすパナイトポラス症候群、毎日何回も突然動作を停止して意識を失う欠神発作を多発してけいれんを起こすこともある小児欠神てんかんなどがこの時期によく見られます。

治療に対する反応も良いことが多いですし、いずれも数年間発作を抑えれば治療を終了できる可能性の高いてんかんになります。ただし、中には治療に対する反応が不良で複数の薬を切り替えなければならなかったり、難治化する場合もあります。

また、発達障害の合併率がやや高いとも言われていますので、気になることがある場合は主治医に相談するようにしましょう。

思春期・青年期のてんかん

この時期に発症するてんかんはほとんどが「特発性全般てんかん」と呼ばれるもので、代表的なものに若年ミオクロニーてんかん、若年欠神てんかん、覚醒時大発作てんかんがあります。

共通する発作は全身のけいれんで、朝ごはんを食べている時などに突然手足がピクンとなるミオクロニー発作、突然動作を停止して意識を失う欠神発作が見られることもあります。また、1997年にピカチュウてんかんとして社会的に問題となった光過敏性を持っていることも多く、脳波検査で光感受性があると言われた方は注意が必要です。

いずれも治療に対する反応はよく、比較的に治療開始後早期に発作を抑えることができますが、再発率が高いことが知られており、治療の中止を試みる場合はその時期を本人、家族、主治医でよく相談することが重要です。

また、運転免許の取得や進学・就職、女性の場合は妊娠・出産などを控えていますので、治療のみならずきめ細やかな配慮が必要です。

高齢者のてんかん

高齢者てんかんはほとんどが側頭葉てんかんであると言われており、それ以外も基本的には焦点てんかんです。近年問題となっているのは、高齢者てんかんの非けいれん性てんかん重積状態が認知症と間違われていることが多い、ということです。

てんかん発作であれば適切な抗てんかん薬の治療により治療することができるので、認知症と言い切れない場合は一度脳波を確認しておく必要があります。高齢者てんかんの特徴として、症状のあるときとないときの差が大きかったり、口をもぐもぐする、体をゆする、ボタンをいじるなどの自動症を伴うことがありますので、認知症と思われてもこのような症状がある場合はてんかんの診療に慣れた医師に相談してみてはいかがでしょうか。

てんかんの検査

てんかんの診断に役立つ検査として脳波検査が有名ですが、てんかん=脳波異常があるというわけではありません。

脳波検査は頭皮に電極をたくさん貼って、脳の表面に存在する神経細胞の電気的な興奮を検出する検査です。脳の深い部分での電気活動は検出することはできませんし、睡眠の深さによっては異常波がでないこともあります。また、30分程度の記録時間の中では異常が出ないということもあります。検査で異常がないからといっててんかんを否定することはできませんし、逆に脳波の異常があるからといっててんかんというわけではありません。

てんかんの診断はあくまで症状からおこなうものです。

ただし、てんかん発作が起きているときの脳波が記録できて、それが発作の脳波であればてんかん発作であると断言できます。てんかん発作が起きていないときの脳波(発作間欠期脳波と言います)はあくまで参考にしかならない、ということです。

てんかん専門医は、発作の症状からてんかんの焦点を推測し、それと一致した部位に脳波の異常があれば「てんかんらしい」と考えます。脳波異常がなくてもてんかん発作と思われる症状を反復する場合はてんかんと診断できます。

てんかんらしい、となった場合は脳波検査や血液検査の他に、てんかんの原因を探るため頭部画像検査(CTやMRI)などをおこないます。

治療を開始した後は、治療効果の判定や副作用チェックのために脳波検査、血液検査や尿検査などを定期的におこないます。

てんかん外科治療が必要になるかもしれないときは、PETやSPECTなどの脳機能画像検査、脳磁図、頭蓋内脳波などのより専門的な検査を「てんかんセンター」と呼ばれる高度てんかん治療の可能な専門施設でおこないます。

てんかんの治療

てんかんの治療は原則として抗てんかん薬と呼ばれるお薬の内服治療が中心となります。

発作の種類、てんかんの種類から適切と思われる薬を1つ選択して、原則1種類の薬での治療を試みます。薬の効果は個人差も大きいので、発作の頻度や脳波検査の所見をみながら増量したり、変更したり、薬剤を追加したりして調整していきます。

内服治療で十分な治療効果が得られない場合、外科治療や特殊治療があります。

外科治療は、てんかん発作の焦点を取り除いたり電気の広がりを抑える焦点切除、興奮が脳の全体に広がらないようにする脳梁離断、発作の頻度を減少させることを狙った迷走神経刺激療法などがあります。発作の完全抑制を目指す治療から、発作頻度の軽減を目指す治療までさまざまですが、2-3種類の薬剤を使用しても2年以上発作抑制ができていない方はてんかん外科治療の適応になる可能性があります。

特殊治療には、ケトン食療法やホルモン療法などがあります。ホルモン療法の代表的なものにウエスト症候群に対するACTH療法があります。ケトン食療法は炭水化物を減らして脂質の比率を増やす食事療法ですが、一部の難治てんかんに対して有効であることがあります。また、GLUT1欠損症という病気に対してはケトン食療法は中心的な治療になります。

日常生活の注意点

発作の種類、てんかんの種類にもよりますが、発作の再発を防ぐため、発作による事故を防ぐためには生活上の注意が必要なことがあります。しかし、治療をして発作をきちんとコントロールすればてんかんがあるからできないことはあまりないものです。てんかんがあっても普通に生活できるようにすることが治療の目標でもあります。

患者様の安全を守ることは当然大切なことですが、不必要な生活制限は小児であれば発達や自己評価に影響を与えますし、成人でも自尊心に関わります。安全を担保したうえで、患者様が社会の中で尊厳を持って生活できるようにバランスを取らなければなりません。

日常生活の注意点としては、睡眠不足や飲酒、疲労などにより発作が起きやすくなることがありますので、十分な睡眠をとって規則正しい生活リズムで生活することが重要です。飲酒はしても深酒は避けてほどほどにしましょう。命に関わる事故につながるシーンとしては入浴が最も重要です。てんかん関連死のなかで最も多い原因が溺死であり、そのなかでも入浴中が最も多いとされています。てんかんのなかには夕方のリラックスした時間帯に発作を起こしやすいものもあり、プールよりも入浴の方が危険性は高くなります。発作が落ち着いていない時期はシャワーにする、鍵はかけない、お湯は浅めにする、誰かと一緒に入るか一人で入る場合は5分おきなどに声かけをしてもらう、などの工夫が必要です。発作が起きても溺れない、万が一溺れてもすぐに助けられる環境にしておくことが重要です。

全身けいれんや意識を失う発作が落ち着いていない時のプールは控えた方がいいのですが、発作が落ち着いていれば必ずしも制限は必要ありません。ただ、発作が起きたときに誰かがすぐに助けられる環境であること、異変があっても人に気づかれにくいため潜水はしない、などの注意は必要です。

旅行や宿泊行事についての制限はありませんが、薬の飲み忘れに注意する、薬は多めに持って行く、発作が落ち着いていない時は緊急時に受診できる病院をあらかじめ決めておいて緊急受診用の診療情報提供書を主治医に書いてもらっておく、などの対応が必要になります。また、海外旅行の場合は英文の投薬証明(税関で必要となることがある)や英文のてんかん緊急カード(てんかん学会のもの)などの作成を主治医に依頼しましょう。

妊娠・出産や運転免許、社会福祉制度などに関しては別の機会にまた詳しくご説明することとします。

*注:本文中の医学的なてんかん専門用語は、2017年改訂の新分類をもとに、2017年以前の旧分類の名称も併記しています。

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