てんかんと予防接種

てんかん
UnsplashCDCが撮影した写真

はじめに

てんかんやてんかんを合併することの多い重症心身障害があると、予防接種を受けることに不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、てんかんがあっても予防接種を受けることは大切です。

確かに予防接種によって発熱することで発作が再燃する可能性はありますが、感染症に伴う発熱の方が、発作の重積や脳症を起こすリスクがはるかに高いからです。

てんかんの中には、発熱に伴って発作が悪化することのあるてんかんもあります。このようなてんかんの患者様は、予防接種による発熱も発作を悪化させる可能性があります。しかし、実際にはそのようなケースは稀であり、逆に感染症に伴って発熱した場合の方が重篤な合併症を起こすリスクの高いことが知られています。

特にドラベ症候群の患者様は、感染症に伴って重積発作を起こしたり急性脳症を引き起こす可能性があります。重積発作や急性脳症はときに重い後遺症を遺すことがありますが、例えばインフルエンザや新型コロナウイルスなどは予防接種により重症化率を低下させることができる可能性があります。

てんかんをもつ方や重症心身障害児者に対する予防接種は、病状の安定性を考慮しながら行われるべきです。本記事では、日本小児神経学会が推奨する「てんかんをもつ小児に対する予防接種指針」に基づいて、てんかんと予防接種について解説します。

てんかんをもつ方への予防接種

1. 難治てんかんとワクチン接種

難治てんかんの方に対するワクチン接種に関して、麻疹ワクチンでの発作増悪率は6%、インフルエンザワクチンで2%、他のワクチンでは発作増悪は見られなかったことが報告されています。その一方で、麻疹やインフルエンザに自然罹患した場合は6割の方で発作が増悪して入院を要したと報告されています。予防接種による発作増悪リスクよりも自然罹患による発作増悪リスクの方が明らかに頻度や重症度ともに高く、予防接種をためらう理由にはならないことは明らかでしょう。

月単位で無発作を得られるほどコントロールのついていない難治てんかんの方の予防接種に対する考え方はあまり明言されていませんが、前述のように予防接種による一時的な発作増悪よりも自然罹患による重症化リスクの方が懸念されるため、発作コントロールがついていない方はコントロールがつくまで予防接種を控えるのではなく、発作コントロールがついていなくても(予防薬や発作時緊急薬の用意などをして増悪時の対策を講じた上で)接種を進めていただく方が現実的な対応ではないかと思います(これは私見です)。

2. 予防接種基準

日本小児神経学会が推奨するてんかんをもつ小児への予防接種基準を以下に示します。

  1. コントロールが良好なてんかんをもつ小児では最終発作から2~3カ月程度経過し、体調が安定していれば現行のすべてのワクチンを接種して差し支えない。また乳幼児期の無熱性けいれんで観察期間が短い場合でも、良性乳児けいれんや軽症胃腸炎に伴うけいれんに属すものは上記に準じた基準で接種してよい。
  2. 1以外のてんかんをもつ小児でもその発作状況がよく確認されており、病状と体調が安定していれば主治医(接種医)が適切と判断した時期にすべての予防接種をして差し支えない。
  3. 発熱によってけいれん発作が誘発されやすいてんかん患児(特に乳児重症ミオクロニーてんかんなど)では、発熱が生じた場合の発作予防策と万一の発作時の対策(自宅での抗けいれん剤の使用法 救急病院との連携や重積症時の治療内容など)を個別に設定・指導しておく。
  4. ACTH 療法後の予防接種は 6カ月以上あけて接種する。
  5. 免疫グロブリン大量療法後(総投与量が約1~2g/kg)の生ワクチン(風疹 麻疹 水痘 おたふくかぜなど)は6カ月以上、それ以下の量では 3カ月以上あけて接種する。ただし、接種効果に影響がないその他のワクチン(ポリオ、BCG、DPT、インフルエンザなど)はその限りでない。
  6. なお、いずれの場合も事前に保護者への十分な説明と同意が必要である。

この指針は、主にコロナ禍前に日本で実施されている予防接種について推奨されたものですが、新型コロナウイルスワクチンについても同様に考えて頂いて良いかと思います。

予防接種は重症化予防など感染症から患者様ご自身を守る効果のみならず、集団免疫によって集団全体を守る効果も期待できます。

重症心身障害児者への予防接種

1. 多様な基礎疾患と生活環境

重症心身障害児者は発育不良や病状が落ち着かず入退院を繰り返していたり、てんかん発作のコントロールがついていなかったりといったさまざまな理由で予防接種の機会を逸している方も多くみられます。しかし、学校や通所施設、入所施設などで感染症に罹患する機会も多く、またいったん感染症に罹患すると重症化をしやすい方も多いため、積極的な予防接種が推奨されます。

2. 予防接種基準

日本小児神経学会が推奨する重症心身障害児者への予防接種基準を以下に示します。

  1. 発育障害が明らかであっても全身状態が落ち着いており予防接種の有用性が大であれば、すべての予防接種をして差し支えない。
  2. 接種対象年齢を超過していても接種の有用性が大であれば、接種をして差し支えない。
  3. てんかん発作が認められても、その発作状況がよく確認され安定していれば主治医(接種医)の判断で適切な時期に接種して差し支えない。
  4. 乳幼児期の障害児で原疾患が特定されていない例では、接種後けいれんの出現や病状の増悪を認めた場合、予防接種との因果関係をめぐり混乱を生じる恐れがあるので事前に保護者への十分な説明と同意取得が必要である。

まとめ

てんかんや重症心身障害児者に対する予防接種は、個々の状態や病歴を踏まえた慎重な計画が必要です。主治医は保護者に必要かつ十分で正確な情報を提供し、緊急時の対応なども含めよく話し合い、安全かつ有効な予防接種計画を進めていくことが重要です。

てんかんといっても様々なタイプがありますので、予防接種を受ける際にはかかりつけ医やてんかん主治医に相談し、予防接種により発熱した場合や発熱に伴い発作が再発したときの対応について、予めご相談頂いてから接種をするとよりご安心頂けるかと思います。

てんかんを理由に予防接種を打つことが難しいと言われてお困りの患者様は、てんかん主治医にご相談されてみてはいかがでしょうか。

当院に通院中の患者様で、かかりつけ医では対応が難しいと言われお困りの患者様は、ご遠慮なく定期受診時等にご相談ください。

参考文献

  1. 日本小児科学会ホームページ「Q1:てんかんをもっている児は予防接種ができませんか?」
  2. 粟屋豊, 永井利三郎. てんかん,重症心身障害児(者)への予防接種基準. 脳と発達. 2005;37(3):p251-256.
  3. 粟屋豊. 基礎疾患をもつ患児に対する予防接種 神経疾患と予防接種. 小児感染免疫. 2007; 19(4):p420-426.