乳児期発症のてんかん性脳症で、発症直後は一見熱性けいれんと似た経過をたどる難治てんかんであるドラベ症候群について解説します。
概要
乳児期に発熱に伴うけいれんで発症し、1歳過ぎ頃から発達の遅れ、多様な発作を起こすようになる難治のてんかん性脳症で、以前は乳児重症ミオクロニーてんかんと呼ばれていました。
原因遺伝子としてSCN1Aという遺伝子に異常が見られることが多く、スチリペントールやフェンフルラミンという新しい抗てんかん薬の発売により発作もある程度抑えられることができるようになってきており、近年診断と治療が大きく進んできた疾患です。
成人期にわたっててんかん発作が続くこと、ミオクロニー発作を伴わないこともあることから、ドラベ症候群の病名に統一されるようになりました。
好発年齢
生後6か月前後(遅くとも15か月未満)で主に発熱に伴って、多くは長時間のけいれん(重積発作)で発症します。入浴やこもり熱、さらには熱がないときに発作を起こすこともあり、全身のけいれんだけでなく体の片側だけだったり意識が保たれていたり、多彩な発作を生じることも特徴です。
発作・症状
乳児期
かぜなどの感染、入浴、予防接種などに伴う発熱に誘発されて発作を起こします。
発作は全身のけいれん(強直間代発作)をはじめとして片側のピクンピクンするけいれん(間代発作)など多彩な発作を起こし、ときに熱のないときにも発作を起こす点で熱性けいれんとは区別できます。
発作は重積(長時間のけいれん)や群発(ひとつずつの発作は長くないものの1日のうちに何度も起こす)することが多いため、しばしば治療や経過観察のために入院となってしまいます。
ほとんどの方は1歳までは発作を繰り返していても発達の遅れや脳波異常ははっきりしません。
幼児期(1~5歳)
手足のピクつくミオクロニー発作や突然動作を停止させる(非定型)欠神発作、突然脱力する脱力発作などさまざまな他のタイプの発作が出現します。
ミオクロニー発作は光刺激や特定の図形刺激によって誘発されることもあり、全身のけいれんに移行することがもあります。
また、発作の重積に伴う急性脳症により重症化し、命に関わることもあるため注意が必要です。
1歳を過ぎたころから発達がゆっくりになってきて、失調といってからだがふらつく症状が目立ってきます。具体的には歩行を獲得しても左右に揺れながら歩くような不安定な歩容となります。
学童期(6歳以降)
学童期に入ると発作は少しずつ減って発作の持続時間も短くなって症状としては安定していきます。
体の一部分から始まり全身に広がるけいれんが見られますが、ミオクロニー発作や欠神発作は見られなくなることもあります。
不器用、多動、知的障害、自閉傾向など発達障害のような症状が目立ってきます。
思春期以降
思春期以降は睡眠中の数分のけいれん発作のみとなることも多いのですが、完全に発作を起こさなくなることはほとんどありません。
発熱により誘発される発作も減少はするのですが、成人になっても持続します。一方で、ふらつきなどの失調症状や運動障害は成人期移行に悪化する傾向にあります。
発作の誘因
体温上昇
かぜなどの感染や予防接種などによる発熱はもとより、入浴やこもり熱によっても誘発されます。
発熱時は積極的に冷却し、解熱剤も積極的に使用していきます。
入浴はぬるめの湯温にして長湯を避ける、暑い季節はシャワーにするなどの工夫をします。
また、夏場は熱がこもりやすいため基本的に薄着とし、冷却剤や手持ち扇風機などの冷却手段も積極的に使用していきましょう。
夏場の運動による体温上昇も誘因となり得ますので、こまめな飲水、クーリング、水浴びなど、なるべく体温上昇をさせないように工夫しましょう。
光刺激
全ての方に見られるわけではありませんが、光刺激に反応する方の場合は明暗差に反応することが多く、よく晴れた日に暗い室内から出たときに発作を起こすこともあります。夏場や快晴の日はサングラスを装着したりひさしのついた帽子などをかぶるとよいかもしれません。
図形刺激
図形に関しても全ての方に見られるわけではなく個人差もありますが、格子柄やしま模様など、コントラストのある模様が刺激になることがあると言われています。
特定の刺激で発作が誘発されていることが明らかな場合は、日常生活の中で誘因となる刺激を避ける、特殊なめがねで軽減できることもあるのでそのような器具の使用を検討するなどの対応が必要となります。
脳波
1歳までの脳波検査では明らかな異常は見られませんが、2~5歳くらいまでに全般性の棘徐波や多焦点性の異常波が見られるようになります(図1)。

注:ECG未装着
実際の症状にかかわらず、光刺激や図形刺激によって突発波が誘発されることがあります。
遺伝子
約75%の方はSCN1A遺伝子に何らかの異常がみられ、そのほかSCN1B、SCN2A、GABRG2などの遺伝子変異の報告もあります。遺伝子変異はほとんどの方が突然変異です。ごくまれに遺伝の方もいらっしゃいますが、ご両親は無症状だったり熱性けいれんプラスだったりします。
ドラベ症候群のように見える症状でも女児の場合はPCDH19という遺伝子の異常のことがあり、経過や有効な治療が異なりますので鑑別が必要です。
ドラベ症候群に対する遺伝子検査は保険適応となっておりますので、疑わしい場合は保険で検査をすることが可能となっています。ただし、一般的な検査会社は対応しておりませんので、全ての医療機関で検査が可能なわけではありません。
診断
経過、発作型、脳波所見などから総合的に診断しますが、1歳までの経過のスクリーニングテスト(Hattori J, et al. Epilepsia 2008)が早期診断に有用と言われています。
- 発症が7か月以下
- 発作回数が5回以上
- 片側のけいれん
- 焦点発作
- ミクロニー発作
- 遷延性発作
- 入浴により誘発された発作
- SCN1A遺伝子変異
上記の項目をスコア付けして合計点が基準点を超えるとドラベ症候群が疑わしくなります。
治療
治療はバルプロ酸ナトリウムから始めてクロバザムを追加することが多いです。この2剤を使用して効果が不十分な場合に限り、これらに加えてスチリペントール(ディアコミット®)というドラベ症候群専用の抗てんかん薬を使用することができます。重積発作を軽減したり、ミオクロニー発作や欠神発作に対する効果が認められると言われています。
しかし、スチリペントールは食事の影響を受けやすい上に食欲低下や体重減少の副作用がきつく、バルプロ酸ナトリウムやクロバザムの血中濃度を上昇させる相互作用があったり、経験豊富な専門医でないと安全に使用することが難しい薬剤です。
その他、臭化カリウムやトピラマートもよく使用され、最近では新規抗てんかん薬であるペランパネルの有効性も報告されつつあります。
カルバマゼピン、ラモトリギン、フェニトインは発作を悪化させる可能性があるので注意が必要です。
抗てんかん薬による治療のみでコントロールが難しい場合はケトン食療法という食事療法をすることもあります。
熱性けいれんの予防にもよく処方されているジアゼパム坐剤(ダイアップ®)は発作の予防薬であり、ドラベ症候群の患者様も発熱時には発作の予防のために解熱剤とともに使用します(解熱剤の坐剤を併用する場合はダイアップ®投与後30分あけて使用)。ただし、あくまで予防薬であり、発作時に使用しても効果がでるまでに20~30分程度かかってしまい重積は免れません。
重積をした際にはミダゾラムが有効ですが、これまでご家族が発作を止めるためにご家庭で使用可能な製剤はなく、救急病院を受診して注射薬により発作を止めてもらうしかありませんでした。2020年2月に武田薬品工業株式会社よりてんかん重積治療薬であるミダゾラム口腔用液(ブコラム®)発作が重積をすることの多いドラベ症候群の患者様にとっては特に販売が待ち望まれてきた製剤です。
2022年12月にはフェンフルラミン(フィンテプラ®)も新たに販売され、今後ますます本症候群の発作コントロールが改善されていくことが期待されますが、一方でますます治療には豊富な経験が求められるようになっていきます。
予後
ドラベ症候群の死亡率は約10%とてんかんの中でも高く、その中でもてんかん重積に伴う急性脳症が36%と最も多く、その他には溺水や事故などが原因と言われています。そのため発作をコントロールすることが最も重要となりますが、完全にコントロールすることは現時点では難しいてんかんとなります。
それでも新規抗てんかん薬の出現により乳幼児期の発作コントロールは以前よりも格段に良くなり、発達予後や生命予後が改善されていくことが期待されています。
多剤併用療法や特殊な抗てんかん薬を使用することが多く、治療には専門的な知識や経験が必要となってきます。発症後数年間は重積しやすいことから救急病院へ通院されることが多いのですが、救急病院には専門医がいないことも多く、長期的な予後を改善するためにも早期から専門医と連携をとって治療に当たることが肝要です。
スチリペントールの出現により重積発作を軽減することができるようになりましたが、さらにミダゾラム口腔用液が販売されると重積発作のときに家庭で早期に薬剤を投与できるようになり、入院機会や脳症の発症も減らすことができるのではないかと期待されます。今後はフェンフルラミンの使用経験の蓄積により、発作頻度も減らしていけるようになることを期待しています。
当法人では多数のドラベ症候群の患者様も通院されており、近隣の救急病院と連携を取りながら治療に当たっております。治療には専門的な知識と豊富な経験が必要となりますので、現在治療や通院先でお困りの方はご遠慮なくご相談ください。
特徴のまとめ
発症年齢
- 1歳未満
発作
- 全身もしくは片側性の(強直)間代発作
- ミオクロニー発作
- 非定型欠神発作
- その他の焦点発作
- 意識減損状態(不規則なミオクロニーを伴う長時間の変動する意識減損)
- 発作の重積または群発
発作の誘因
- 体温上昇
- 光刺激
- 図形刺激
その他の症状
- 発達の(または知的な)遅れ
- 失調(ふらつきや動揺)
- 多動
- 自閉的傾向
検査所見
- 脳波:1歳までは正常、2歳頃から多彩な異常
- 頭部MRI:乳児期は正常、幼児期以降に萎縮など非特異的な所見
- 遺伝子:主としてSCN1A遺伝子変異
参考文献
- ILAE. EpilepsyDiagnosis.org. https://www.epilepsydiagnosis.org/ [閲覧日:2020.6.17]
- Roger J, Bureau M, Dravet Ch, Genton P, Tassinari CA, Wolf P, 著, 井上 有史, 監訳. てんかん症候群 第4版. 中山書店, 2007.
- 日本てんかん学会, 編集. てんかん専門医ガイドブック. 診断と治療社, 2014.
- Hattori J, Ouchida M, Ono J, et al. A screening test for the prediction of Dravet syndrome before one year of age. Epilepsia, 2008: 49(4); 626-33.
- Dravet Ch. Dravet syndrome in 2014. 分子精神医学, 2015: 15(1); 54-7.
- Wallace A, Wirrell E, Kenney-Jung DL, et al. Pharmacotherapy for Dravet Syndrome. Pediatr Drugs, 2016:18(3); 197-208.