小児でもっとも頻度の高いてんかんであるローランドてんかんについて解説します。
概要
ローランドてんかんとは、医学的には中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん(benign childhood epilepsy with centrotemporal spikes: BECT)と呼ばれており、脳波検査の所見がそのまま診断名になっているてんかん症候群です。
国際抗てんかん連盟(ILAE)の新しい分類では「良性」という呼称は誤解を生むと言うことで、childhood epilepsy with centrotemporal spikes (CECTS)と名称変更され、さらに最新の症候群分類では年齢とともに自然終息するてんかん症候群のひとつということでSelf-limited epilepsy with centrotemporal spikes (SeLECTs)となり、そうなってくるとやはりますます一般の方には「ローランドてんかん」とお伝えした方がわかりやすいかもしれません。
小児部分てんかんの20〜25%程度を占めると言われており、やや男児に多く、小児てんかんの中では最も頻度の高いてんかんとなります。
好発年齢
幼児期〜学童期に発症し、一般的には思春期の頃には発作も脳波異常も自然に消失する(良性)小児てんかんです。
時に高年齢まで続くこともありますが、遅くとも18歳くらいまでには発作を起こさなくなると言われています。
発作
発作は睡眠に関連して生じる口周辺〜顔面の片方に限局した1〜2分程度のピクツキで、時に全身のけいれんに進展することがあります。
入眠直後や寝起き前に多いのが特徴で、基本的に日中の起きている時間帯に発作は起こさないため生活の制限は原則必要ありません。
このことは集団生活や社会生活の基礎を身につけるべき年齢にある本疾患の患児たちにとって非常に重要で、不必要な活動制限を受けないようにしなければなりません。
とはいえ、睡眠不足や疲労、薬の飲み忘れなどで日中に発作が起こることはありますので、きちんと内服することや規則正しい生活は重要です。
ただし、日中に発作が起きたとしても口の周囲のみの発作であれば危険性は低いため、いずれにしても日中の生活制限は必要ありません。
診断
特徴的な脳波所見が診断に有用です。
脳の中心部〜側頭部と呼ばれる部分からてんかん波が出ていて(図1)、発作症状が典型的であれば本疾患と診断します。
典型例であれば画像検査は通常おこないませんが、少しでも合わないところがあれば他のてんかんの可能性も考慮して頭部MRIなどの画像検査をおこないます。

治療
約10%の方は発作は1回きりで、約80%の方は6回以下と言われており、いずれは自然に消失するため、夜間の口の周りのピクツキだけで頻度が少ない場合は無治療で経過を見ることもあります。
発作の頻度が多かったり全身のけいれんに進展する場合は内服薬で治療を行います。
内服薬はカルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、レベチラセタムが日本ではよく処方されており、最近ではラコサミドも使用されるようになってきています。
予後
基本的に発達等は問題なく、2〜3年間発作がなければ脳波異常が残っていても治療中止は可能と言われています。
ほとんどのてんかんは脳波異常が残存していることは再発のリスクとなるため治療中止には慎重となりますが、本疾患に関しては原則発作消失期間で判断をします。
内服薬の長期服用の発達への影響もゼロではないため、脳波異常だけを理由に漫然と治療を継続すべきではないでしょう。
ただし、本疾患の患児には行動の問題を抱えている児が一般人口よりも多いことが近年指摘されており、てんかんの治療が終了しても発達面や行動面でのフォローが必要となることもあります。
また、本疾患の発作に脱力発作や欠神発作を伴う非定型部分てんかんというものに変化することがあり、治療抵抗性に経過したり、典型的な発作以外の発作を伴う場合には注意が必要です。