熱性けいれん:熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023に基づいて解説

小児神経疾患
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2015年に日本小児神経学会によって作成された「熱性けいれん診療ガイドライン2015」(以下、ガイドライン2015)に基づいた熱性けいれんに関する解説を以前書かせていただきました(熱性けいれん)。

ガイドライン2015の発表から8年経過し、2023年1月に新たに「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」が発表されました。

大まかな考え方に変更はないのですが、細かな点で変更がありましたので、本記事ではガイドライン2015からの改訂点を中心に、熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023に基づいて熱性けいれんについて解説します。

基本的な考え方はガイドライン2015とほとんど変わっていませんので、以前の記事(熱性けいれん)も合わせてお読みいただくとより理解が深まると思います。

熱性けいれんとは?

熱性けいれん(熱性発作)とは、おもに生後6か月から5歳までの乳幼児が、発熱に伴って発作(けいれんなど)を起こす疾患で、その他の明らかな発作の原因(てんかん、髄膜炎、脳炎・脳症など)がみられないもののことを言います。

報告によって差があるものの、日本では最大9%の児に熱性けいれんが見られ、欧米に比べて頻度の高い疾患です。また、きょうだいや両親などの家族に熱性けいれんを持つことが多いことも特徴です。

熱性けいれんの発作は必ずしも「けいれん」とは限らず、海外でもけいれん(convulsion)ではなく発作(seizure)と表記されることが多いことから、今後は熱性発作という名称に変更されていく流れとなると思います。ただ、熱性けいれんが広く周知されていることから今回のガイドラインでは併記されるにとどまっており、今後熱性発作に変更していくための移行準備段階であると考えられます。

3人に1人が熱性けいれんを2回以上繰り返すと言われていますが、以下のいずれか(再発予測因子)がある場合は2倍以上再発しやすいと言われています。再発予測因子に該当しない場合の再発率は約15%と低くなります。

  • きょうだいや両親に熱性けいれんの既往がある
  • 1歳未満(乳児期)の発症である
  • 発熱から1時間以内の発作である
  • 発作時の体温が39度以下である

熱性けいれんの種類

熱性けいれんは大きく2種類に分けられます。しかし、これは将来のてんかん発症のリスク因子として考えられたもので各項目はそれぞれ違った意味を持っており、また別にてんかんの再発予測因子も記載されていることから、この2つに分類することに本当に意味があることなのかどうか考え直されています。

単純型熱性けいれん

  • 発作はいわゆる「けいれん」
  • 15分以内に止まる発作
  • 24時間以内に発作は1回のみ

複雑型熱性けいれん

  • 発作がけいれん以外(左右非対称、意識障害のみ、など)
  • 15分以上続く発作
  • 24時間以内に発作が複数回反復

熱性けいれんの病院での対応

初回の熱性けいれんで病院を受診したとき、必ずしも髄液検査や血液検査、頭部画像検査などをしてもらう必要はありません。長く持続する発作であったり、意識がなかなか戻らない場合、麻痺などの症状を伴う場合は髄液検査や頭部画像検査、血液検査などを実施します。

熱性けいれんと診断された場合、発作が止まっていても病院でジアゼパム坐剤(ダイアップ®)を使用することがあります。ガイドラインでは病院で発作が止まっている場合はルーチンにジアゼパム坐薬を入れる必要はない、とされています。これはジアゼパム坐薬を使用した場合は脱力したり眠ってしまったりすることがあり、脳炎・脳症による意識障害を見逃してしまうリスクがあるからです。しかし、ジアゼパム坐薬により24時間以内に2回目の発作が起こってしまうことを予防する効果があることがわかっています。ガイドラインでもジアゼパム坐薬の使用を否定するものではなく、適応は地域や家族の心配などを考慮して総合的に判断されるべきものであると解説されています。ただ、24時間以内に2回目の発作を繰り返す児は3人に1人であり、大半の児はもともと1回なのでルーチンにいれる必要はない、ということです。

熱性けいれんとてんかん

熱性けいれんを起こした児のその後のてんかん発症率は、一般人口の発症率に比べると高いのですが、9割以上の児はてんかんにはなりません。熱性けいれん後のてんかん発症因子には以下のようなものがあり、これらの因子がある場合はてんかん発症率が相対的に高いため注意が必要です。

  • もともと発達面で気になることがあったり神経症状がある
  • 家族歴がある
  • 複雑型熱性けいれんである
  • 発熱から1時間以内の発作である
  • 発症年齢が3歳以上である

また、5歳を超える年長児が高熱に伴って発作を起こした場合、熱性けいれんの年齢以外の定義を満たす場合は通常の熱性けいれんと同様に対応しますが、発作を反復した場合や発熱がないときに発作を起こした場合は、てんかんを念頭に専門医へ紹介するようにガイドラインでは推奨されています。

熱性けいれんに対する脳波検査

脳波検査はてんかんの発症や熱性けいれん再発の予測に有用という報告はあるものの、脳波異常に対して治療を開始することの意義は確立していません。一方で、熱性けいれんを起こした児の13-45%に脳波異常がみられ、複雑型熱性けいれんではてんかん性の異常がみられやすいとされています。つまり、熱性けいれんを起こした児に対して脳波検査をすると一定の異常が見つかる可能性があるものの、それに対して治療をしなければならないというものではありません。治療はしなくても異常が見つかった場合は脳波検査のフォローアップが必要になってきます。よって、もともとてんかん発症リスクの高い方に対象をしぼって実施すべきでしょう。

ガイドラインでは、単純型熱性けいれんでは必ずしも脳波検査を行う必要はないものの、複雑型熱性けいれんでは脳波検査を考慮してもよく、将来のてんかん発症の予測を目的とする場合は発作後7日以降に実施すると良いと推奨されました。

熱性けいれんの治療

ガイドラインでは熱性けいれん重積状態に関して、5分以上持続している場合を「薬物治療の開始を考慮すべき重積状態」、30分以上持続または意識なく反復する場合を「長期的後遺症にも注意する必要がある重積状態」と定義しました。5分以上発作が続く場合は何らかの薬剤(病院外であればミダゾラム口腔溶液(ブコラム®)、病院であれば静注薬)によって発作を止める必要がありますので、必ず救急車を要請しましょう。

熱性けいれんの発作の予防にはジアゼパム坐薬を使用します。ジアゼパム坐薬は再発予防の有効性が高いのですが、そもそも熱性けいれんは良性疾患であるため必ずしも予防しなければならないものではありません。15分以上の長い発作を起こしたことのある方(発作を起こすと長い発作になる可能性がある)や、再発リスクの高い前述の再発予測因子のある方に対しての使用が推奨されています。

ジアゼパム坐薬による予防の期間についてははっきりとした医学的根拠はないのですが、最後に発作を起こしてから1〜2年もしくは4〜5歳頃までの投与が良いのではないかと考えられています。

熱性けいれんはてんかんではありませんので、一般的には抗てんかん薬を使用することはしません。ただし、ジアゼパム坐薬による予防をしていても15分以上の長い発作を起こしてしまったり、予防できず発作を繰り返していたり、発熱から発作までが短すぎて坐薬の使用が間に合わず発作を繰り返したりする場合は抗てんかん薬の継続的な内服をすることがあります。

また、熱性けいれんは発熱に伴うものなので、解熱薬の使用により発作を予防できるのではないか、とか、いや逆に解熱剤使用後に体温が再上昇したときに発作が起こるので発作機会を増やすため使ってはいけない、など様々な意見があります。熱性けいれんに対する解熱剤投与の研究が多くあり、発作予防も発作頻度増加もいずれも医学的根拠はありません。わかりやすく言うと、良くも悪くもしないので使っても使わなくてもよい、ということです。ガイドラインでも、他の発熱性疾患と同様に苦痛の緩和のための使用に問題はないとされています。

熱性けいれんで注意すべき薬剤

眠くなりやすいタイプの抗ヒスタミン薬やテオフィリン等のキサンチン製剤は発作の持続時間を長くする可能性があるため注意が必要です。

花粉症やアレルギー性鼻炎で小児科や耳鼻科を受診する際には熱性けいれんのあることを伝えて眠くなりにくいタイプの抗ヒスタミン薬を処方してもらうようにし、もし眠くなりやすいタイプの抗ヒスタミン薬であれば熱のあるときには飲まないようにしましょう。テオフィリンは喘息の治療薬で過去にはよく使用されましたが、最近では重症の喘息の方にしか使用されないと思います。熱性けいれんのある方で普段テオフィリンを飲んでいる方は、やはり発熱時には内服を控えたほうがよいでしょう。

熱性けいれんと予防接種

以前は最終発作から2-3か月あいていれば予防接種を打って良いと言われていましたが、それを「予防接種は最終発作から2-3か月開けるべき」と誤って説明されることがありました。今回のガイドラインでは、当日の体調に留意すればすべてのワクチンを最終発作からの期間に関わらず打って良い、と明言されました。

予防接種によって生じ得る発熱に誘発される発作よりも、実際に感染することによって誘発される発作や脳炎・脳症の合併症の方がはるかに重篤な場合が多く、ガイドラインに明言されたことが大きな意義があります。

予防接種に関する考え方に関しては「てんかんと予防接種」の記事もご参考になさってください。

まとめ

2023年に発行された最新のガイドラインに沿って熱性けいれん(熱性発作)について解説しました。

我が子がけいれんしてしまうというのはとてもつらいことですが、基本的には良性疾患なので心配しなくてよいこと、また逆にどんなときに心配すべきか、検査すべきかを知っていれば冷静に対応できるかと思います。

熱性けいれんの治療に関するご相談、てんかんのご心配、脳波検査の必要性についてなどは、小児神経専門医にご遠慮なくご相談ください。

参考文献

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