てんかんの分類

てんかん

てんかんの治療に使用できる薬剤の選択肢が非常に増えましたので、適切な治療のためには適切な分類と診断がこれまで以上に重要となってきます。しかしてんかんの分類は医療従事者にとっても複雑でわかりにくいのが実状であり、本稿では国際抗てんかん連盟から2017年に発表された最新の分類に従ってなるべくわかりやすく解説します。

てんかん分類の歴史

歴史的にてんかんは国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy: ILAE)によって分類されてきました。発作の分類は1969年の分類が1981年に改定、疾患の分類が1989年に提案され、長らく世界中で使用されてきました。

てんかん分類のわかりにくいところは、「発作の分類」と「疾患の分類」が混在していることにあると思います。

21世紀に入りてんかんの原因遺伝子が次々と解明されていくなかで、てんかんの定義そのものや分類を見直す動きが高まり、2010年に改定案が、そして2017年に新しい分類が発表されました。

これまでの分類

発作の分類

  1. 部分発作:脳の一部から興奮が始まるもの
    • 単純部分発作:意識が保たれているもの
    • 複雑部分発作:意識が失われるもの
    • 二次性全般化:全身のけいれんに進展するもの
  2. 全般発作:脳の全体が一気に興奮するもの
    • 欠神発作
    • ミオクロニー発作
    • 間代発作
    • 強直発作
    • 強直間代発作
    • 脱力発作
  3. 分類不能

実際にみられる発作症状を分類するもので、治療のためのてんかん分類で最も重要なところです。大きく部分発作と全般発作に分けられ、意識が保たれているかどうか、実際にどのような発作なのかで分類されていました。

長らく使用されてきた分類であり、未だによく使われていますが、「二次性全般化」はあくまで部分発作であって全般発作ではないのですが全般発作と間違われることがある点、強直発作や間代発作などは部分発作にも見られる点などで問題があり、見直しが求められていました。

疾患の分類

部分てんかん全般てんかん
特発性特発性部分てんかん特発性全般てんかん
症候性症候性部分てんかん症候性全般てんかん

これまでの分類では、脳腫瘍や脳の形成異常、脳梗塞後など、脳に明らかな原因となる構造などの異常が見られるものを症候性、はっきりとした異常の見られないものを特発性てんかんと呼び、さらに脳の一部の部分てんかんなのか、脳の全体の全般てんかんなのか、上記の2×2の表で示されるように分類されてきました。

これはこれである意味分かりやすいのですが、特発性てんかんがまるで「原因不明」のように言われてしまうこともあり、部分てんかんと全般てんかんの区別が非常に難しいものも多く存在するため、見直しが必要でした。

症候群の分類

上記の発作の分類と疾患の分類に加えて、さらに症候群分類というものが存在しており、ますますわけがわからなくなってしまっていました。

混乱を生じるだけなのでここでは割愛させて頂きますが、いかに複雑でわかりにくかったかがご理解頂けるかと思います。

新しい分類

てんかんの原因、発作の分類、疾患の分類、症候群の分類を段階を追って分類していく方法に変わりました。分類できなければ「不明」とする点もいさぎよくなっています。

病因(てんかんの原因)の分類

  • 素因性:以前の特発性。多くは遺伝子異常と言われています。
  • 構造的:脳梗塞や脳の形成異常など、画像上の異常を伴うものです。
  • 感染性:脳炎や脳症、髄膜炎など、感染による後遺症です。
  • 代謝性:代謝異常症による脳の傷害の結果生じるものです。
  • 免疫性:自己免疫脳炎などの自己免疫による傷害によるものです。
  • 病因不明:上記に含まれないものを病因不明とします。

以前の分類で「特発性」と呼ばれていたものは、まだ見つかっていないものも含めてほとんどがなんらかのてんかん遺伝子の異常であろうと言われています。そのため、遺伝子によるもの、その方の持っている体質によるもの、という意味合いの「genetic」、日本語訳は「素因性」という名称になりました。

それ以外は以前の分類の「症候性」に含まれるもので、MRIなどの画像で明らかな異常があるものが「構造的」、その他てんかんの原因となる疾患によって分類されますが、重複することもありますし治療には大きく影響しないためざっくりで良いとされています。

発作による分類

  • 焦点起始発作
    • 焦点意識保持発作
    • 焦点意識減損発作
    • 焦点起始両側強直間代発作
  • 全般起始発作
  • 起始不明発作

大脳の片側の一部から発作が始まるものを「焦点起始発作」、大脳の両側が同時に一気に興奮して発作が始まるものを「全般起始発作」、発作を見ただけではどちらか判断できない場合は「起始不明発作」と分類します。

焦点起始発作は大脳の片側の一部から電気的な興奮が始まるため、興奮の範囲が狭いと意識が保たれた状態で発作を起こすことがあります。

意識の保たれた焦点起始発作を焦点意識保持発作(旧 単純部分発作)、意識の保たれていない焦点起始発作を焦点意識減損発作(旧 複雑部分発作)と呼びます。

さらに、大脳の片側の一部から始まった電気的な興奮が大脳の両側に広がって全身のけいれん(強直間代発作)となった場合は焦点起始両側強直間代発作と呼ぶこととなっています(旧 二次性全般化)。

これをもとに次の「てんかん病型」を分類していきます。

てんかん病型の分類

  • 焦点てんかん
  • 全般てんかん
  • 全般焦点合併てんかん
  • 病型不明てんかん

どのような発作を起こすかで分類します。焦点起始発作を起こすてんかんは焦点てんかん、全般起始てんかんを起こすてんかんは全般てんかん、焦点起始発作と全般起始発作の両方を起こすてんかんは全般焦点合併てんかん、発作の起始がよく分からない起始不明発作を起こすてんかんは病型不明てんかんとなります。

てんかん症候群

最後に、発症年齢や経過、発作型、脳波所見、併存症などから既知のてんかん症候群と診断できるものは診断していきます。

ウエスト症候群レノックス・ガストー症候群ドラベ症候群ローランドてんかん、など当院のホームページでも解説しているしているてんかんは「てんかん症候群」です。

てんかん症候群に分類することができれば今後どのように経過するのか、どのような薬が効きやすいのか、などがわかるため、可能な限りここまで診断したいものです。

ただし、診断を間違えると予後や治療も間違えてしまうため、診断に自信がなければ発作型分類や病型分類にとどめて治療を進めることもあります。

分類の実際

それでは発作や病型がどのように分類されていくのか、仮想症例を用いて具体的に解説していきます。

症例1 14歳女性

これまで特に既往のない中学生です。1か月前に朝顔を洗っているときに左右対称な全身のけいれんを起こし救急車で救急病院に搬送されました。血液検査や頭部画像では異常なく、初回のけいれんなので経過観察となりました。

その後、学校で帰宅した夕方、自宅のソファーでテレビを見ていたところ再度同様の発作を起こし、脳波では全般性の棘徐波を認めました。

なお、1年前頃から早朝に手がピクついて箸を落としたり味噌汁をこぼすことがあったとのことです。

病因は?

これまで基礎疾患を疑うような既往がなく、検査でも異常は見られなかったことから素因性と考えられます。

発作は?

この方の発作は左右対称な全身のけいれんと早朝の手のピクツキです。

一般的に「全身のけいれん」と表現される発作は、強直発作、間代発作、強直間代発作のことを指します。

強直発作は「ぎゅー」と手足に力が入り、場合によっては小刻みにブルブル震える発作です。

間代発作は「ビクンビクン」「バタンバタン」「カクンカクン」とリズミカルに力が入ったり抜けたりを反復する発作です。

強直間代発作は、「ぎゅー」や「ブルブル」と力が入ったのちに少しずつ間隔が開き始め「ビクンビクン」とする、強直発作ののちに間代発作となる発作です。

早朝の手のピクツキは短い筋肉の収縮で、ミオクロニー発作と呼びます。

左右対称な全身の強直発作、間代発作、強直間代発作、早朝の手のミオクロニー発作は、いずれも大脳全体が一気に電気的に興奮する全般起始発作に分類されます。

病型は?

この方には2種類の発作がありますが、いずれも全般起始発作であり、全般てんかんと分類できます。

さらにこの方の病因は素因性ですので、素因性全般てんかんという分類となります。

症候群は?

ここからは既知の症候群に分類できるかということになりますが、この方の病歴は

  • これまでに基礎疾患を疑う既往歴なし
  • 思春期発症
  • 発作型は強直(間代)発作と早朝のミオクロニー発作

という特徴があり、若年ミオクロニーてんかんと診断できます。

症例2 6歳男児

1か月前頃より入眠後や起床前に顔の右側をピクピクさせるようになりました。本人も覚えていて勝手に口元が動くと言っています。時に右手足もピクンピクンとさせ、視線も合わず本人の意識もないこともあるようです。病院を受診し血液検査や画像検査では異常はなく、脳波検査で左優位に中心部〜側頭部に特徴的なてんかんの波が見られました。

病因は?

症例1と同様に血液検査や画像検査では異常なく、素因性です。

発作は?

体の片側のピクピクは大脳の片側の興奮と考えられ焦点起始発作、本人も覚えている発作は焦点意識保持発作、意識がないときは焦点意識減損発作です。

病型は?

病因は素因性、発作は焦点起始発作のみであり、素因性焦点てんかんとなります。

症候群は?

6歳発症、入眠後や起床前に限定し、片側顔面から始まる発作、脳波所見も合わせてローランドてんかんと診断できます。

症例3 3歳女児

新生児期に化膿性髄膜炎に罹患し、その際に合併症として広範囲の脳梗塞を多発し後遺症として脳性麻痺となりました。生後半年頃から体の片側のピクピクする発作、片側のピクピクから全身のけいれんとなる発作、突然全身をギューッと硬直させる発作をおこすようになりました。

病因は?

もともとは化膿性髄膜炎が発端ですが、てんかんの直接の原因は合併症の多発脳梗塞ですので構造的としてよいでしょう。

ILAEによると、感染性は先天性サイトメガロウイルス感染症など胎内での先天感染が原因でてんかんを発症した場合などの病因として説明されています。

発作は?

片側のピクピクは焦点起始発作、そこから全身に広がるけいれんは焦点起始両側強直間代発作、突然全身が硬直する発作は全般起始発作でしょう。

病型は?

この方の発作は焦点起始発作と全般起始発作が両方ありますので、構造的全般焦点合併てんかんとなります。

症候群は?

この情報だけでは既知の症候群に該当しませんので、この方の診断は上記の病型分類までとなり、それをもとに治療を進めていくこととなります。

この時点で症候群の診断にまで至らなくても、今後(非定型)欠神発作や脱力発作など別の発作が見られるようになったり、特徴的な脳波に変化したりすることによりレノックス・ガストー症候群などの症候群の診断となる可能性はあります。

分類に基づいた治療戦略

長くなりましたが、このように病因、発作、病型、症候群を可能な限り的確に分類していくことによってそれに応じた治療を組み立てていきます。

分類を間違えてしまうと治療も間違えてしまう可能性がありますが、てんかんの症状は年齢とともに変化していくことがあります。

治療がうまくいかない場合は改めて分類を見直して治療戦略を立て直すことも必要です。

参考文献

  1. Scheffer IE, Berkovic S, Capovilla G, et al. ILAE classification of the epilepsies: Position paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. Epilepsia 2017; 58: 512–21.
  2. Fisher RS, Cross JH, French JA, et al., Operational classification of seizure types by the International League Against Epilepsy: Position Paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. Epilepsia 2017; 58 :522–30.

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