てんかんや小児神経疾患の患者様たちの小児期から成人期への移行には多くの課題があり、それを解決する一助となりたい、と思い開業を決意しました。
今回は主に重度の障害を抱える患者様たちの移行の現状について書きたいと思います。
はじめに
新生児医療や小児医療の進歩により多くの命が救われるようになった一方で、脳性麻痺など何らかの後遺症を抱えたり、人工呼吸や経管栄養などの医療的なサポートを受けながらも在宅で生活ができる児が多くなってきています。
呼吸管理、栄養管理、薬物治療なども良くなってきており、医療が必要であってもきちんと医療的なサポートが受けられれば成人期を迎えることが出来るようになってきています。
重症心身障害児(者)とは
行政上の呼び名で、一般的には重度の身体障害と知的障害を合併している方のことを指します。
一般的には大島分類という分類法が用いられ、大島分類1〜4、すなわちIQが35以下で歩行ができない方のことを指します。
参考:重症心身障害児者とは 東京都福祉保健局
特に、人工呼吸や経管栄養、中心静脈栄養などを必要とする方のことは超重症児(者)といいます。
本稿では「重度障害」と漠然とした表現としていますが、人工呼吸や経管栄養、喀痰吸引などの何らかの医療的ケアが必要だったり、知的障害や身体障害により何らかの支援が必要な児のことを想定しています。すなわち、必ずしも重症心身障害児(者)や超重症児(者)の定義に当てはまらない方々も対象として考えています。
障害の原因となる病気
障害の原因となる病気は様々です。
生まれる前の原因としては、胎内での感染症や胎児の発生の段階での異常、染色体異常や遺伝子異常(神経筋疾患、てんかんや先天代謝異常もここに含まれます)による病気が挙げられます。
生まれるときの原因としては、早産、常位胎盤早期剥離による重度の低酸素状態、分娩の異常による重症仮死などが挙げられます。それによる後遺症はいわゆる脳性麻痺と呼ばれるもので、重症度には幅があります。
生まれた後の原因としては、髄膜炎や急性脳炎・脳症などの感染症、誤嚥や溺水による窒息、交通事故などによる後遺症があります。
いずれの原因も脳や脊髄、筋肉などの機能に問題があることが多く、小児科の中でも小児神経科医が主治医として担当することが多いです。
障害がわかったら
前述のような原因で障害がわかった場合、今後どのように生活していくかを考えていかなければなりません。
人工呼吸が必要な方の場合、以前はなかなか自宅退院することが難しく病院に長期入院していることも多かったのですが、最近では人工呼吸器も小型化し、自宅退院できるようになりました。
どの程度の医療的ケアが必要か、にも依りますが、何らかの支援が必要である場合は支援体制を整えなければなりません。そのため、急性期を過ぎた頃には患者様とそのご家族様、医療チームと地域の支援チームとで会議を重ね、在宅での過ごし方を模索していきます。
その後、主治医、訪問看護ステーション、場合によっては訪問診療医、リハビリなどの療育機関、行政、教育機関などが連携して患者様を支援していきます。
患者様の生活として、長期施設入所されている方と在宅で生活をされている方がいらっしゃいますが、本稿では在宅の患者様を想定しています。
移行期医療
そしていつかは成人期を迎える過渡期となります。小児期医療から成人期医療への移り変わりのことを日本小児科学会は「移行期医療」と呼んでいます。
一般的に小児科を標榜している医療機関が診療する年齢は15歳の中学生までです。16歳の高校生以上は成人診療科に移行することとなります。
その理由として、小児と成人とで罹りうる病気が違うということ、小児科医は成人の診療に不慣れで成人の薬物治療にも精通していないことなどがあります。要するに「専門外」ということです。
しかし一方で、重度障害を抱えた患者様は前述のように様々な原因で小児期発症の疾患を抱えていて、特に先天異常の場合の多くは希少疾患(○万人に1人などの稀な病気)で成人診療科の医師は聞いたことも無いような病名だったりします。希少疾患ではなく脳性麻痺であったとしても、小児期発症の障害児の管理には不慣れです。要するに「専門外」なのです。
小児神経科医はこのような重度障害の患者様の管理は「専門」とするところですので、主治医として成人になっても診療することは十分に可能でしょう。しかし、糖尿病や高脂血症、高血圧、悪性腫瘍などの成人期の疾患には不慣れです。また、そうでなくとも肺炎やてんかん発作などで入院が必要となることは多々ありますが、そのようなときに病院の小児科のみで診療にあたっていると入院病棟の問題が生じてしまいます。小児病棟に成人患者を入院させることは現在の保険診療上難しいですし、小児期発症の急性疾患の患者を入院するための病棟であり、やはり成人患者が小児病棟に入院することは望ましいことではないでしょう。その一方で、成人病棟は不慣れな小児科かかりつけの患者様を入院させることに拒否的となってしまうのです。全くもって患者目線ではない、医療システムと病院都合による問題です。
ではどうしたら良いのか
移行期医療における医療システムとして、4つのパターンが提唱されています。
- 完全に成人診療科に移行する
- 小児科と成人診療科の両方にかかる
- 小児科に継続して受診する
- どこにも定期的に受診しない
やはり何らかの基礎疾患のある重度障害を抱えた患者様の場合、完全に成人診療科に移行することは難しいでしょう。その点に関してはやはり「専門」とする小児神経科医が主治医として関わり続けることが望ましいと考えています。その一方で、前述の理由によりやはり「小児科」に継続して通院することは望ましいことではありません。
私見となりますが、重度障害を抱えた患者様に関しては、主治医として小児神経科医が関わり続け、その間に見つかったり発生した種々の問題に関してはその都度成人診療科に紹介する、という形が最も望ましいのではないかと考えます。そのためには、やはり病院の「小児科」という立場ではなく、病院外の独立した専門機関からの依頼・紹介とした方が連携はスムーズになると考えています。
連携の重要性
そこで私は小児期から成人期までワンストップで診療を行い、患者様の医療に関するハブとなる機能を開業して作り上げようと考えています。継続した総合的な医療的管理はもちろん、必要な支援に関する相談、新たな支援が必要になった場合はその紹介、入院が必要であったり合併症の治療が必要となった場合は適切な医療機関への紹介を滞りなく行えるようにすることを目指しています。
患者様とそのご家族様を始め、多くの方のご協力が必要となってくると思います。特に、実際に困っていらっしゃる患者様とそのご家族様がどのような医療を受けたいと思われておられるのか、その声が最も重要だと考えています。ぜひ当事者の皆様のお力をお借りしたいと思っています。
連携したい!と思って頂けるご施設はご遠慮無くご連絡頂ければ幸いです。