てんかんはどなたにでも起こり得ますが、女性の場合は月経や妊娠、出産、産後の育児などに関してご不安も多いかと思いますし、特に知っておいていただきたい注意点があります。
今回はてんかんをお持ちの方の月経・妊娠について、次回は出産・育児について、Q&A形式で解説します。
月経
Q:二次性徴前にてんかんの薬を飲み始めることで初潮が遅れたり早まったりしませんか?
A:てんかんのお薬が月経や妊娠に影響を与えることをしばしば耳にされると思います。そのため、お子さまにてんかんのお薬を内服させることで将来の月経や妊娠に影響が出るのではないかとご心配になるかもしれません。
てんかんのお薬が妊娠に影響を与えるのは基本的にはお薬を内服している期間のみであり、小児てんかんはお薬の治療を終了できることも多いため将来のことに関して必要以上に心配される必要はありません。
ただし、思春期以降もお薬の治療を継続しなければならない場合は月経や妊娠に対する影響を考慮しなければなりませんので、ご不安な点は率直にてんかんの主治医に伝えるようにしましょう。
Q:生理が不安定なのはてんかんやお薬と関係がありますか?
A:一部のてんかんのお薬では多嚢胞性卵巣症候群の副作用が知られており、そのお薬を飲んでいて月経が不順である場合はお薬との関係を疑います。お薬との関係が疑われる場合は産婦人科で詳しく検査をしてもらう必要があります。お薬を変更することで改善することもありますが、てんかん発作の再発リスクも考慮する必要があるため、自己判断せず必ず主治医と相談するようにしましょう。
それ以外のお薬を飲んでいる場合は基本的には関係はないと考えます。若年ミオクロニーてんかんなど思春期に発症するてんかんの場合、お薬を飲み始める時期はもともとまだ月経が安定しない時期です。てんかんの発症と重なることで関係があるのではないかと不安になるかもしれませんが、通常はてんかんやお薬との関係は考えにくいのでご安心ください。
Q:生理中に関連して発作が増えるのですがどうにかなりませんか?
A:月経に関連して発作が一定以上多くなる月経てんかんというものがあります。女性ホルモンには神経を興奮させるものと神経を抑制するものがあり、そのバランスで発作が増えるのではないかと言われています。月経てんかんの場合は月経前後のみお薬を多くしたり、月経てんかんに有効なお薬を使用したりして対応します。
また、身体的なストレスが大きくなることで発作が起こりやすくなることもあり、月経が重い方の場合は月経を軽くすることで発作が減少することもあります。
妊娠
Q:赤ちゃんに影響のあるお薬を妊娠前に飲んでも将来の妊娠には影響はありませんか?
A:てんかんのお薬の中には妊娠中におなかの赤ちゃんに影響のあるものがありますが、それを妊娠前に飲んでいても将来妊娠する赤ちゃんには影響ありません。可能な限り妊娠は計画的に、妊娠前までに内服薬の調整を終えて発作のコントロールを安定させておくとよいでしょう。
Q:赤ちゃんが出来にくいのですが、てんかんのお薬を飲んでいることと関係はありますか?
A:一部のてんかんのお薬で起こる可能性のある多嚢胞性卵巣症候群は、男性ホルモンが優勢になることによって排卵しにくくなる病気です。月経不順や多毛、体重増加などの症状がある方は副作用の可能性がありますのでてんかんの主治医や産婦人科の主治医に相談しましょう。
てんかんがなくても妊娠された方の約15%は流産をすることがあり、万が一流産をしてしまっても必ずしもてんかんやお薬の影響とは言えません。お気持ちはお察ししますがてんかんであるご自分を責めたりなさらないで下さい。
Q:てんかんは遺伝しますか?
A:てんかんの中には遺伝子が関係しているものも多く存在しますが、遺伝子が関係しているからといって必ずしもお子さまに遺伝するわけではありません。特定の遺伝子がてんかん発症に直接的に関係しているてんかんはごく一部で、ほとんどのてんかんは複数の遺伝子が関係しており、同じ遺伝子の変異があってもてんかんを発症しない方もいますし、別のてんかんを発症する方もいます。
その他の多くの内科疾患と同様、てんかんの方が多くいらっしゃる家系というものはありますが、ご家族にてんかんの方がいらっしゃらなくても約1%の方にてんかんは起こり得ます。お子さまがてんかんを発症したとしても、お母様にてんかんがあることと関係があるかどうかは明らかではないとしか言えません。
Q:妊娠中にワクチンを打つことはできますか?
A:妊娠中にワクチンを打つことに関してはご心配も多いかと思いますが、妊娠中に限らずてんかんがあるからといってワクチンを打てないということはありません。むしろ、感染そのものや感染した際に重症化することを予防することは重要です。
ワクチンには「不活化ワクチン」と「生ワクチン」があり、生ワクチンは弱毒化したウイルスを接種するもの、不活化ワクチンはウイルスを含まずウイルスの一部の無害な成分を接種することで免疫をつけるものです。生ワクチンには麻しん風しんワクチン、おたふくかぜワクチン、水痘ワクチン、ポリオワクチンなどがあり、不活化ワクチンにはインフルエンザワクチンなどがあります。
生ワクチンを妊娠中に打つことはできませんが、不活化ワクチンは打つことができます。接種をご希望のワクチンがどちらに該当するかを医師に確認し、妊娠中であることを申告して接種可能かご確認下さい。
また、新型コロナウイルスワクチンには「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」と「不活化ワクチン」があります。mRNAワクチンは、ウイルスのパーツの設計図であるmRNAを投与することで、ウイルスのパーツを自分のからだに作らせ、その作られたものに対して免疫を反応させることで新型コロナウイルスに対する免疫を身につけるという作用のワクチンになります。mRNAは非常に不安定な物質であるため超低温での保存が必要で話題となっておりますが、非常に不安定な物質なので胎盤を通過して胎児に影響を与えることは考えにくいですし、細胞の核に取り込まれることはないためヒトのDNAと干渉することはありません。妊婦に特化した安全性データは不足しているものの、厚生労働省も米国CDCも作用のしかたを考慮すると妊婦への接種は問題ないとしています。
Q:てんかんがあると妊娠してはいけないのですか?
A:そんなことはありません。てんかんがあっても妊娠、出産を経て育児をされている方はたくさんいらっしゃいます。
ただし、注意すべき点がいくつかありますので、詳しくは他のQ&Aもご覧下さい。
Q:てんかんのお薬を飲んでいると赤ちゃんに障害が出るのですか?
A:すべてのお薬で赤ちゃんに影響が出るわけではありませんが、赤ちゃんに影響する可能性のあるお薬もあります。
そのため、できれば妊娠する前に赤ちゃんに影響の少ないお薬への切り替えや、切り替えが難しい場合は赤ちゃんへの影響を少しでも減らすために投与量の調整を行います。
また、一部のお薬(バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン)は葉酸の代謝に影響がありますので、妊娠前から葉酸のサプリメントの服用をお勧めします。ただ、葉酸は妊娠を希望されるすべての方に推奨されます。
葉酸不足によって神経管閉鎖障害と言って、脊髄などがきちんと閉じない二分脊椎などが生じる可能性が知られています。神経管の閉鎖は妊娠の早い時期、場合によっては妊娠に気がつかないくらいの時期に起こりますので、妊娠前から葉酸を補充することが重要です。
ガイドラインでの推奨量は、妊娠前で1日400μg、妊娠中は1日600μg、授乳中は1日500μgです。
以上より、てんかんのお薬を飲んでいて妊娠を希望される方は、可能な限り計画的に妊娠することが望ましいと言えます。
お母様にてんかんがなくても生まれつきの障害を持つお子さんが生まれる確率は2~3%程度あると言われています。万が一なんらかの障害を持ってお生まれになったとしても、必ずしもてんかんやお薬の影響とは言えません。お気持ちはお察ししますが決してご自分を責めたりしないでくださいね。
Q:計画的な妊娠のため、経口避妊薬は使用できますか?
A:一部のてんかんのお薬では経口避妊薬の避妊効果を弱めてしまう可能性があり、また経口避妊薬によりお薬の血中濃度が低下する薬剤もあります。
計画的な妊娠のためには産婦人科の主治医とてんかんの主治医が連携を取って情報共有をすることが望まれます。
避妊のためだけではなく月経コントロールのために低用量ピルを服用している方もいるかと思いますが、注意点としては同様です。
経口避妊薬と影響しあう可能性のあるてんかんのお薬を飲まれている場合はIUD(子宮内避妊具)など別の避妊方法が推奨されますので、産婦人科の先生と相談するようにしましょう。
予期しない妊娠や発作の再発を避けるためにも自己判断は禁物です。必ず医師と相談するようにしましょう。
Q:妊娠したらてんかんのお薬はやめないといけませんか?
A:てんかんのお薬をやめる必要はありません。むしろ、きちんとお薬を続けることでなるべく発作を起こさないようにしましょう。
ただし、前述のように赤ちゃんに影響のあるお薬もあるので、できれば妊娠前にお薬の調整をしておくことが望ましいです。
妊娠中はからだの水分量が増えてお薬の血中濃度が低下し、発作が起こりやすくなる可能性があります。妊娠中もてんかんの主治医にきちんと発作とお薬を管理してもらうようにしましょう。
Q:妊娠中に発作が起きた場合はどうしたらよいですか?
A:妊娠していないときと同じ対応で結構です。
約70%の方は妊娠前と発作の頻度は変わりませんが、約20%の方で発作が増えると言われています。
妊娠前よりも発作が増えている場合はお薬の調整が必要になりますので早めに主治医に相談するようにしましょう。
多くの発作は妊娠に影響はありませんが、強直間代発作(いわゆる全身のけいれん)に関しては赤ちゃんの酸素不足や切迫流早産の原因になる可能性がありますので、できる限り抑えた方が良いでしょう。
おわりに
当院では将来の妊娠・出産を見据えた薬剤選択や、計画的な妊娠に向けた薬剤調整等のご相談もお受けしております。
ご不安を抱えてお悩みの方はお気軽にご相談ください。
参考文献
- 皆川公夫, 渡邊年秀, 大柳玲嬉. バルプロ酸内服中の女性てんかん患者にみられた多囊胞性卵巣症候群に関する検討. てんかん研究. 2011;29:22-27.
- 兼子直, 管るみ子, 田中正樹, 他. てんかんをもつ妊娠可能年齢の女性に対する治療ガイドライン. てんかん研究. 2007; 25: 27-31.
- てんかんと女性. 「てんかん診療ガイドライン」作成委員会編. てんかん診療ガイドライン 2018. 東京: 医学書院, 2018: 133-135.
- 江川 真希子, 男女共同参画委員会. てんかん女性と妊娠. てんかん研究. 2021; 38: 211-215.
- CDC(Center for Disease Control and Prevention). Vaccination Considerations for People who are Pregnant or Breastfeeding. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/pregnancy.html [閲覧日:2021.2.25]