てんかんはどなたにでも起こり得ますが、女性の場合は月経や妊娠、出産、産後の育児などに関してご不安も多いかと思いますし、特に知っておいていただきたい注意点があります。
前回はてんかんを持つ方の月経・妊娠についてご説明致しましたが、今回は出産・育児について解説します。
出産
Q:てんかんがあると帝王切開になりますか?
A:てんかんがあるという理由だけで帝王切開になることはありません。
自然分娩だと分娩中に発作が起きないかご心配かと思いますが、ガイドラインにおいても分娩中に発作が起きた場合は一般的な発作時の対応で良いとされています。
Q:てんかんのお薬を飲んでいると母乳はあげられないって本当ですか?
A:お母さんのお腹の中にいるときよりも母乳に含まれるお薬の量は少なく、原則的に母乳を控える必要はありません。ただし、赤ちゃんが眠くなったりする可能性のあるお薬もありますので注意は必要です。
産後の赤ちゃんの様子をしっかりと小児科医に診察してもらえる施設でのお産が良いでしょう。
Q:実父母のサポートのある里帰り出産にした方がよいですか?
A:パートナーのサポートがしっかり得られる状況であれば必ずしも里帰りである必要はありません。産後のサポートは長期におよびますので、里帰りをするかしないかに関わらず、パートナーと産後の生活の分担をしっかりと決めておくと良いでしょう。
これはてんかんがない方でも同様かと思います。
どこでお産をするにしても、産後の赤ちゃんの様子を診てもらえる小児科や、可能であれば入院中やお産前後のてんかんの管理をしてもらえる医師のいる施設が望ましいでしょう。てんかんに関しては、てんかんの主治医とお産をする施設との間で事前にお産前後の管理について情報共有をしておいてもらうと良いでしょう。
育児
Q:産後の育児で気をつける点はありますか?
A:てんかんは睡眠不足が発作再発リスクとなりますので、産後のママの生活は発作再発のリスクが高い生活ということになります。
まずはママが睡眠不足にならないよう、家族の理解とサポートを整えておくことが最も重要です。
夜間の授乳が多い場合は、夜間は哺乳瓶にしてパートナーに授乳を任せ、ママは睡眠を確保するために別の部屋で寝る、などある程度割り切ることも必要かと思います。ただし、ご家庭によって状況はさまざまかと思いますので、現実的に対応可能な方法をよく話し合うようにして下さい。
また、育児中に発作が起きたときのリスクを考えた行動が必要です。例えば、沐浴は一人でしないようにするかパートナーに任せる、おむつ替えは床の上でママも座っておこなう、外出時はなるべくベビーカーを利用する、などです。
発作によって赤ちゃんを落としてしまったり、赤ちゃんに覆い被さってしまったりしないように、という考え方です。
Q:夫や義父母にはこどもを産むことを反対されています。どのように説明すれば良いのでしょうか
A:まずはこの記事(前回の記事も)を紹介してみて下さい。それでも反対されるようならてんかんの主治医の先生に相談して直接説明してもらうのはどうでしょうか。
多くは知らないことによる不安から反対されていると思います。そもそもてんかんとはどのような病気なのか、ご本人のてんかんはどのようなタイプのてんかんで、妊娠・出産に関してどのようなリスクがあるのか、などを正しく理解して頂くことで、適切に対応すれば安全に妊娠・出産を迎えることができることをご理解頂けるかと思います。
てんかんがなくても妊娠・出産は女性にとっては命がけで大変なものです。てんかんがなくても妊娠中の生活や産後の育児については計画的にご家族でよく話し合う必要があります。てんかんがある場合はちょっとだけ気をつけるべきことが多い、ということです。
おわりに
当院ではてんかんの患者様の妊娠や出産に関するご相談やサポートも行っております。
通院中の方は定期診察の際に、はじめての方は初診のご予約をお取りになってお気軽にご相談ください。
参考文献
- 兼子直, 管るみ子, 田中正樹, 他. てんかんをもつ妊娠可能年齢の女性に対する治療ガイドライン. てんかん研究. 2007; 25: 27-31.
- てんかんと女性. 「てんかん診療ガイドライン」作成委員会編. てんかん診療ガイドライン 2018. 東京: 医学書院, 2018: 133-135.
- 江川 真希子, 男女共同参画委員会. てんかん女性と妊娠. てんかん研究. 2021; 38: 211-215.