発作時レスキュー薬の選び方

てんかん

「いつ発作が起きるかわからない」という不安は、てんかんと共に生きる患者様やご家族にとって大きなストレスです。発作が長引いた時や、繰り返す時(群発)に、病院に着く前に対処できるレスキュー薬の存在は非常に心強いものです。

近年、このレスキュー薬の選択肢が増え、患者様の年齢や生活スタイルに合わせた使い分けができるようになってきました。ここでは、これまでの薬の課題と、新しく登場した「点鼻薬」について解説します。

これまでのレスキュー薬と課題

これまで、日本国内で一般的に使用されてきた発作時のレスキュー薬は、主に以下の2つ(場合によっては3つ)でした。

  1. ジアゼパム坐剤(お尻から入れる薬)
  2. ミダゾラム口腔用液(頬の内側に塗る薬)
  3. (抱水クロラール注腸液:お尻から入れる水薬)

これらは長年使用されてきましたが、実はいくつかの使いにくさや課題がありました[1]。

ジアゼパム坐剤:実は「緊急用」としては使いにくい?

選択肢の少なかったこともありこれまで多くの方に処方されてきた坐剤ですが、本来は「予防薬」としての側面が強いお薬です。

  • 効果が出るまで時間がかかる: お薬を入れてから血中濃度(血液中の薬の濃度)が有効なレベルに達するまで、20〜30分程度かかるとされています[2]。そのため、「今起きている発作をすぐに止めたい」という緊急時には効果が間に合わないことがあります。
  • プライバシーと介助負担の問題: 使用するには、発作中の患者様を横にしてズボンと下着を下ろし、お尻を露出させる必要があります[3]。外出先や学校、職場などでこの処置を行うことは、患者様の尊厳(プライバシー)を守る点でも、介助者の心理的身体的負担の点でも大きなハードルとなっていました。
  • 大人の適応がない: 基本的には小児向けの薬剤であり、そもそも18歳以上の成人には適応がありません。しかし成人の患者様でも、他に選択肢がないためにやむを得ず処方されているケースが多く見受けられます[1]。

ミダゾラム口腔用液:即効性はあるけれど……

2020年に登場したこのお薬は、てんかん重積状態(発作が長く続く状態)の治療薬として認められており、数分で効果が現れる優れたお薬です[4]。しかし、口腔粘膜(頬の内側)から吸収させるという特徴ゆえの難しさがありました。

  • 使い方が難しい発作がある: 完全に意識を失って体が硬くなるような発作(強直間代発作)以外では、患者様が薬を飲み込んでしまったり、吐き出してしまったりすることがあります。粘膜から吸収されないと十分な効果が期待できないため、使用できる発作のタイプが限られていました[5]。
  • 保管と使用後のルール: シリンジゴムの劣化を防ぐために「立てて保管」しなければならないという制約や、使用後は原則として救急車を呼ばなければならないというルールがあり、日常的な使い勝手に課題がありました。また、この薬剤も基本的には18歳未満が対象で、成人の適応はありません[1]。

ジアゼパム点鼻薬の登場

こうした課題を解決する新しい選択肢として、2025年12月24日にジアゼパム点鼻液が発売されました。このお薬は、これまでの薬剤が抱えていた多くの問題を克服している点で高く評価されています。

点鼻薬の3つの大きなメリット

1. どんな状況でも、サッと使える(簡便性)

最大の特徴は「鼻にシュッとするだけ」という点です。

  • 姿勢を選ばない: 発作で倒れていても、車椅子に座っていても使用可能です。
  • 服を脱がせる必要がない: 坐剤のように服を脱がせる必要がないため、学校や職場、外出先でも人目を気にせず迅速に対応できます[3]。
  • 意識状態に関わらず投与可能: 口から飲むわけではないので、意識がもうろうとしていても、飲み込む力がなくても安全に使用できます。

2. すばやい効果(即効性)

鼻の粘膜には多くの血管が通っており、薬剤が素早く吸収されます。効果は数分で現れるため、発作を早期に止める効果が期待できます[6]。海外のデータでは、発作開始から5分以内にこの点鼻薬を使用した場合、使用しなかった場合に比べて発作が早く止まり、その後の発作時間も短くなったという報告があります[7]。

3. 保管しやすく、大人も使える

  • 常温保存OK: 特別な管理は不要で、カバンに入れてどこへでも持ち運べます。
  • 成人適応あり: これまで選択肢が少なかった18歳以上の成人患者様にも、正式に適応が認められました[8]。
特徴ジアゼパム坐剤ミダゾラム口腔用液ジアゼパム点鼻液(新)
投与経路お尻(直腸)口の中(頬粘膜)鼻(点鼻)
効果の速さゆっくり(20-30分)速い(数分)速い(数分)
対象年齢小児18歳未満6歳以上(成人も可)
外出先での使用難しい(場所を選ぶ)可能だが発作型を選ぶ発作型や場所によらず使用可能
学校等施設での使用可能なことが多い可能な施設が増えつつある新薬のため限定的と予想される
図 レスキュー薬の特徴比較(著者作成)

これからの病院前発作時治療は「オーダーメード」の時代へ

新しい点鼻薬の登場により、てんかんのレスキュー治療は大きな転換点を迎えました。これからは「これしかないから使う」のではなく、患者様一人ひとりの状況に合わせてレスキュー薬を選ぶ「オーダーメード」の時代に入っていきます。

薬を使い分けるポイントは以下の通りです。

  • 年齢: 小さなお子さんなのか、学校に通う児童・生徒なのか、成人なのか。
  • 発作のタイプ: 全身がけいれんする発作なのか、意識がぼんやりする発作なのか。
  • 使用する目的: 今起きている発作を「止めたい」のか、これから起きそうな発作を「予防したい」のか。
  • 使用する場所: 自宅なのか、学校や職場なのか(学校では新薬の使用が難しいケースが多くあります)[9]。

医師と相談してみましょう

「今使っている薬で大丈夫かな?」「外出用にもっと使いやすい薬はないかな?」と思われた方は、ぜひ主治医に相談してみてください。新しい選択肢が増えたことで、患者様やご家族がより安心して生活できる環境が整いつつあります。発作への備えを万全にすることで、日々の生活をより前向きに過ごしていきましょう。

参考文献

[1] 日本小児神経学会 監修. 小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023. 診断と治療社, 2023.

[2] Minagawa K, et al. Pharmacokinetics of rectal diazepam in the prevention of recurrent febrile convulsions. Brain Dev 1986; 8: 53-9.

[3] Gidal B, et al. Opportunities for community pharmacists to counsel patients with epilepsy and seizure clusters. J Pharm Pract. 2022.

[4] Neurelis. Valtoco (diazepam nasal spray). Full prescribing information. San Diego, CA: Neurelis; 2021.

[5] Muchohi SN, et al. Pharmacokinetics and clinical efficacy of midazolam in children with severe malaria and convulsions. Br J Clin Pharmacol 2008; 66: 529-38.

[6] Misra SN, et al. Plain Language Summary of Rapid Rescue Treatment. Neurol Ther 2024; 13: 221–231.

[7] Misra SN, et al. Key Summary Points. Neurol Ther 2024; 13: 221–231.

[8] Wheless JW, et al. Final results from a Phase 3, long-term, open-label, repeat-dose safety study of diazepam nasal spray for seizure clusters in patients with epilepsy. Epilepsia 2021; 62: 2485–2495.

[9] Wait S, et al. The administration of rescue medication to children with prolonged acute convulsive seizures in the community: what happens in practice? Eur J Paediatr Neurol 2013; 17: 14-23.