てんかんがあっても大丈夫!修学旅行や家族旅行を楽しむための準備と3つの約束

てんかん

過ごしやすい季節となり、修学旅行や家族旅行などの宿泊行事を予定されている方も多いのではないでしょうか。家族やお友達との旅行は、とても楽しみで大切な思い出になるイベントです。

でも、もしあなたやご家族に「てんかん」がある場合、「発作が起きたらどうしよう…」「周りに迷惑をかけないかな…」「薬はちゃんと飲めるかな…」と、楽しみな気持ちと同じくらい、不安な気持ちを抱えているかもしれません。

てんかんがあるからというだけで、旅行を諦める必要はありません。大切なのは、「正しい準備」と「いくつかの約束事」を知っておくこと。

この記事では、てんかんのあるご家族やご本人が、安心して宿泊行事や旅行に参加するために、私がいつも診察室でお伝えしている大切なポイントをご紹介します。

旅行前の準備は万全に!主治医の先生と「作戦会議」を

旅行の計画が決まったら、まずは主治医の先生に相談しましょう。これはとても大切な「作戦会議」です。

  • 「いつ、どこへ、どれくらいの期間」行くのかを伝えてください。
  • 現在の体調や発作の状況で、旅行に参加しても問題ないかを確認します。
  • 荷物の紛失などでお薬が足りなくならないよう、旅行の日数分+α(予備)を処方してもらいます。お薬は、万が一に備えて、手荷物とスーツケースなど複数の場所に分けて入れておくようにしましょう。

発作が心配な時は「お守り」を準備

もし、発作がまだ十分にコントロールできていなかったり、環境の変化で発作が出やすいタイプだったりして、現地での救急受診の可能性が少しでも考えられる場合は、主治医の先生に「緊急時用の診療情報提供書(紹介状)」を作成してもらうことをお勧めします。

これには、診断名やこれまでの経過、発作の様子、飲んでいるお薬の種類、発作が起きた時の対応などを書いてもらいます。万が一、旅先で病院にかかることになっても、この「お守り」があれば、現地の先生にスムーズに情報を伝えることができ、ご本人も周りの方も安心です。

ただし、診療情報提供書の作成には時間がかかります(当院では通常2週間)ので、旅行の予定がわかった時点で早めに依頼するようにしましょう。

旅行中に守ってほしい「3つの大切な約束」

さあ、いよいよ旅行本番です!思いっきり楽しむために、そして何より安全に過ごすために、私がいつも患者さんにお願いしている「3つの大切な約束」があります。

約束1:お薬は「絶対に」忘れない

旅行中はいつもと違う環境ですし、楽しい時間を過ごしているとついお薬の時間を忘れてしまうかもしれません。でも、お薬を飲み忘れると発作が起きやすくなってしまうため、これは一番大切な約束です。

  • 工夫①:アラームをセットする
    • スマホや時計のアラームを、いつも薬を飲む時間にセットしておきましょう。
  • 工夫②:周りの人に協力してもらう
    • 修学旅行であれば、引率の先生(養護の先生や担任の先生)に「〇時にお薬を飲むので確認のため声をかけてください」などとお願いしておきましょう。先生方もその方が安心です。
    • てんかんのあることを周りに伝えてある場合は、同じ班の仲の良いお友達にお願いしておくのも良いですね。

約束2:お風呂は「一人で」入らない

旅行で疲れているときの入浴は、ホッと一息リラックスし発作が起きやすいタイミングとなります。

もしお風呂で一人きりの時に発作が起きてしまうと、湯船で溺れてしまう危険があります。

  • 大浴場の場合は必ず誰かと一緒に入るようにしましょう。
  • 一人部屋などで難しい場合、湯船にお湯は溜めずシャワーのみにしましょう。

約束3:睡眠はいつも通りしっかり取ろう(最後の一人にならないで!)

旅行の夜は、お友達とのおしゃべりが尽きませんよね。その気持ち、とてもよく分かります。

しかし、睡眠不足はてんかん発作のとても大きな引き金になります。

  • 「あともう少しだけ…」と思っても、いつも寝ている時間になったらベッドに入る勇気を持ちましょう。
  • 私はよく「どんなに楽しくて盛り上がっても、最後の一人にはならないようにね!」とお話ししています。
  • 相部屋のみんなが寝てしまう前に「おやすみ」を言う。それだけで、発作のリスクを大きく減らすことができます。

【応用編】海外旅行や飛行機の場合は?

修学旅行が海外だったり、ご家族で海外旅行に行ったりする場合、「時差」と「飛行機」が気になりますよね。

これも、事前に主治医の先生としっかり「作戦会議」をしておきましょう。

  • フライト中の服薬タイミング
    • 日本時間のまま飲むのか、現地時間(到着地の時間)に合わせるのか、悩ましいところです。
    • 「服薬の間隔が開きすぎない」ことを最優先にプランを立てます。
    • 日本時間と現地時間のどちらに合わせても、お薬の間隔がいつも以上に空いてしまうようなら、あえて短い間隔で飲んでもらうことがあります。例えば時差が5時間の場合、日本時間の夜7時に飲んで現地時間の朝7時に飲もうとすると17時間空いてしまいます。このような場合は飛行機で寝る前または寝て起きた辺り、ちょうど間を埋めるような形で、日本時間の朝や現地時間の夜の時間くらいに合わせて1回余分に飲んでおく、などの計画を考えます。
    • いつもより短い間隔で飲むためお薬によっては眠気が出るかもしれませんが、間隔が空いて発作が起きるリスクよりは安全という考え方です。
  • 現地に到着したら
    • 到着した日の翌朝からは、現地の時間に合わせて、いつも通りの間隔(例:朝・夕)で服用できればOKです。

このあたりは、お薬の種類や発作のタイプによっても最適なプランが異なるため、必ず主治医の先生と具体的なフライトスケジュールを見ながら相談してくださいね。

海外ならではの「さらなる安心」のための準備

海外では、医療システムや緊急時の対応が日本と大きく異なります。万が一に備えて、以下の準備もしておくとさらに安心です。

  • 英文で書かれた診療情報提供書(紹介状)
    • 主治医の先生に準備してもらえるか相談してみましょう。
  • 服用している薬の英語名(一般名・成分名)のリスト
    • お薬手帳と合わせて持っておくと確実です。
  • 現地の救急医療機関(病院)の情報収集
    • 滞在先の近くで、外国人を受け入れている病院を調べておきましょう。
  • 海外旅行保険への加入と保険証
    • 日本の医療保険証は使えないため、必ず加入しておきましょう。
  • 在外公館(大使館や領事館)の連絡先
    • 緊急時に助けを求められるよう、連絡先を控えておきましょう。

まとめ:しっかり準備して、最高の思い出を作ろう!

てんかんがあるからといって、宿泊行事や旅行を諦める必要は全くありません。

  1. 事前に主治医に相談し、お薬やお守り(診療情報提供書)を準備する。
  2. 旅行中は「①お薬」「②お風呂」「③睡眠」の3つの約束を守る。
  3. (海外の場合)万が一の備えを追加で準備する。

これらをしっかり守れば、安全に、そして思いきり旅行を楽しむことができます。

不安なこと、心配なことがあれば、一人で抱え込まずに主治医の先生に何でも相談してください。主治医はきっと親身に相談に乗ってくれるはずです。

準備を万全にして、かけがえのない、楽しい思い出をたくさん作ってきてくださいね。それでは良い旅を!