てんかんと睡眠 ― 睡眠不足はなぜ発作を誘発するのか

てんかんと睡眠 ― 睡眠不足はなぜ発作を誘発するのか てんかん

「試験前に徹夜をした翌朝に発作が起きた」「夜更かしが続いた週に発作が増えた」——てんかんのある方やご家族から、こうしたお話をよく伺います。

これは気のせいではありません。1,677人を対象にした調査では、半数以上が発作のきっかけ(誘因)に心当たりがあると答えています[1]。最も多く挙げられたのはストレス(約21%)で、睡眠不足(約12%)、疲労(約10%)がこれに続きました[1]。

そして睡眠不足は、数ある誘因の中でも「自分で減らせる」数少ないもののひとつです。この記事では、なぜ睡眠不足が発作を誘発するのか、その仕組みと今日からできる対策を解説します。てんかんの基本はてんかんとはもあわせてご覧ください。

症状・特徴 ― 発作は「起きやすい時間帯」を持っている

発作は一日のどの時間にも均等に起きるわけではありません。てんかんのある人の9割以上で、発作の出方に24時間周期のパターンがあることが知られています[3]。多くの発作が、眠っている間や、眠りに入る前後・目覚めた直後に集中します。

睡眠との結びつきがとくに強いタイプには、次のようなものがあります。

ご自身やお子さんの発作がどれに当てはまるかは、てんかんの分類が手がかりになります。

原因・メカニズム ― なぜ眠らないと発作が起きやすくなるのか

脳には「これ以上の興奮が重なると発作になる」という境目があり、これを**発作閾値(いきち)**と呼びます。コップの縁の高さのようなもので、閾値が下がると少ない刺激でも水があふれてしまいます。睡眠不足はこの縁を下げる代表的な要因で、仕組みは大きく4つに整理できます。

1. ノンレム睡眠では脳の活動がそろいやすい
深い眠り(ノンレム睡眠)では、多数の神経細胞がゆっくりした波に合わせて一斉に活動します。この「そろった動き」は記憶の整理に必要なものですが、同時にてんかん性の異常な放電(棘波)も出やすく、広がりやすい状態をつくります。逆にレム睡眠中は脳の活動がバラバラになるため異常放電は強く抑えられます。ある研究では、眼球が活発に動くレム睡眠(相動性レム睡眠)の間は、そうでないレム睡眠に比べて棘波が約4割少なく、より病的な高周波の異常波にいたっては8割近く少ないことが示されました[5]。睡眠は、発作を「抑える時間」と「起きやすい時間」の両方を含んでいるのです。

2. 睡眠不足でブレーキ役の働きが弱まる
脳の興奮を抑えるブレーキ役として、GABA(ギャバ)という物質が働いています。睡眠を削った状態では、このGABAによる持続的な抑制が弱まることが動物実験・臨床研究の双方で示されており、睡眠不足が発作を誘発する有力な説明のひとつと考えられています[2]。

3. 体内時計そのものが興奮しやすさを変える
体内時計を刻む「時計遺伝子」は、神経細胞の興奮しやすさやGABAの働き、脳のエネルギー代謝を1日のリズムで調節しています[6]。夜更かしや不規則な生活でこのリズムがずれると、発作の起きやすさも変わってきます。実際、発作の起きやすさには数日〜1か月単位の周期があることも報告されています[7]。

4. 「発作 → 眠れない → また発作」の悪循環
てんかんと睡眠の関係は一方通行ではありません。夜間の発作やてんかん性の脳波の乱れは眠りを分断し、深い眠りやレム睡眠を減らします[3][10]。眠りが浅くなればまた発作が起きやすくなる——この輪をどこかで断つことが日常管理の要になります。

診断 ― 睡眠は「検査の味方」でもある

眠っているときは異常な脳波が出やすいため、診断では睡眠が積極的に利用されます。

脳波検査では、覚醒時だけでなく睡眠時の記録をとることで異常波の検出率が上がります。さらに、前夜の睡眠時間をあえて短くしてから受けるという方法もあります。ただしこれは医師の指示のもとで計画的に行う検査です。自己判断で睡眠を削ることは、発作を誘発するおそれがあるため避けてください。

診察では、次のような情報が診断の助けになります。

  • 発作が起きた日付・時刻と、その前夜の睡眠時間(発作日誌や発作記録アプリが役立ちます)
  • 大きないびき、睡眠中に呼吸が止まる、日中の強い眠気——これらは睡眠時無呼吸のサインです。てんかんのある人では合併が3割前後にみられるという報告があり[8]、専門的な検査で調べる必要があります。
  • 睡眠中の異常な動き(叫ぶ、起き上がる、暴れる)。発作か寝ぼけ(睡眠時随伴症)かは、入院で実施するビデオ付きの脳波検査(長時間ビデオ脳波)で見分けられることがあります。

初めてけいれんを起こしたときの考え方は突然のけいれんを、お子さんの発熱時のけいれんについては熱性けいれん2023ガイドラインをご参照ください。

治療 ― 睡眠を整えることも治療の一部

治療の柱は抗てんかん発作薬(薬物治療)で、十分な効果が得られない場合には非薬物治療も検討されます。そのうえで、睡眠については次の3点が論点になります。

① 薬と眠気・不眠の関係
抗てんかん発作薬には眠気を強めるものもあれば、かえって寝つきを悪くするものもあります。副作用の詳細は抗てんかん発作薬の副作用にまとめていますが、大切なのは自己判断で減らしたり中断したりしないことです。急な中断は発作を誘発する要因になります。眠気や不眠が気になるときは、服用のタイミングや薬剤の変更を主治医と相談してください。

② 不眠は「様子見」ではなく治療できる
てんかんのある成人の3〜7割が不眠を抱えているという報告があります[3]。まずは後述の生活の工夫(睡眠衛生)が基本で、それでも改善しないときは、不眠症に対する認知行動療法や薬物治療が検討されます。睡眠の問題を整えることが発作の管理に役立つ場合もありますが、どの方法が適切かは人によって異なります。市販の睡眠改善薬を自己判断で使うことは、飲み合わせの問題もあるため避け、必ず主治医にご相談ください。

③ 睡眠時無呼吸があれば、その治療が発作にも効きうる
睡眠時無呼吸を合併している方では、CPAP(持続陽圧呼吸療法)をきちんと使えた人で発作の回数が減ったという報告があります[8]。「てんかんの薬を増やす」以外の道が見つかることもある、という点で重要です。

日常生活で気をつけたいこと

まず必要な睡眠時間を確保したうえで、起きる時刻・寝る時刻をできるだけ一定に保つことが大切です。睡眠時間が足りている人でも、平日と休日で就寝・起床時刻が大きくずれる「寝だめ」は、体内時計を毎週ずらしてしまうためおすすめできません。

  • 睡眠時間の目安を知る … 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安に、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間の睡眠を確保することが推奨されています[9]。必要な時間には個人差があるので、「日中(特に午前中)に強い眠気がないか」も目安にしてください。
  • 徹夜を避ける … 試験勉強、夜通しのゲームや動画、部活の合宿、夜勤や交代勤務、時差のある旅行は要注意です。学校や職場に配慮をお願いすることも検討しましょう。
  • 朝は光を浴び、夜は光を減らす … 起床後の日光は体内時計を整えます。就寝前のスマートフォンの強い光は寝つきを妨げます。
  • カフェインとアルコール … カフェインは午後以降を控えめに。アルコールは寝つきをよくするように感じても、睡眠の後半を浅くし、酔いがさめる過程で発作が起こりやすくなることが知られています。
  • 昼寝は20〜30分程度にとどめ、夕方以降は避ける
  • 発作に備える … 睡眠中の発作がある場合は、家族とてんかん発作時の対応を共有し、必要に応じて発作時レスキュー薬の使い方も確認しておきましょう。
  • 記録する … 睡眠時間と発作を並べて記録すると、自分の傾向が見えてきます。

なお、睡眠を整えても発作が完全になくなるとは限りません。それでも、避けられる誘因をひとつ減らすことは、発作の予測しやすさと生活の安定につながります。

一方で、誘因が思い当たらない発作も少なくありません。発作は誘因だけで決まるものではなく、十分に眠っていても起こることがあります。発作が起きたときに、ご自身やご家族の過ごし方を責める必要はありません。記録は「原因探し」ではなく、主治医と傾向を共有するためのものと考えてください。

受診の目安

次のような場合は、一度医師に相談することをおすすめします。

  • 睡眠不足や夜更かしのあとに、発作やピクつきが繰り返し起きている
  • 朝方や起床直後に、手足がピクッとする動きがある
  • 眠っている間に、叫ぶ・起き上がる・体をこわばらせるなどの動きが繰り返しみられる
  • 大きないびき、睡眠中に呼吸が止まる、日中の強い眠気がある
  • 薬を始めてから、眠気や不眠が続いている
  • 生活を整えても発作が減らない

てんかんの診療では、発作のタイプと生活リズムの両面から治療を組み立てることが大切です。気になる症状があるときは、てんかんを専門とする医師(てんかん専門医)や専門外来のある医療機関にご相談ください。睡眠の問題は、伝えなければ診察では見えにくいテーマです。「よく眠れていない」と一言添えるだけで、治療の選択肢が広がることがあります。

まとめ

  • 睡眠不足は、患者さんが最も多く挙げる発作の誘因のひとつであり、しかも自分で減らせる誘因です。
  • 深いノンレム睡眠では脳の活動がそろい、てんかん性の放電が出やすくなります。一方でレム睡眠には発作を抑える働きがあります。
  • 睡眠不足はGABAによる抑制を弱め、体内時計の乱れとあいまって発作閾値を下げると考えられています。
  • 睡眠脳波や断眠脳波は診断にも役立ちます(自己判断での断眠は避けてください)。
  • 不眠や睡眠時無呼吸は治療できる問題であり、その治療が発作の減少につながることがあります。
  • 必要な睡眠時間を確保したうえで、就寝・起床時刻を一定に保つことが、日常でとりくみやすい対策です。

参考文献

  1. Nakken KO, Solaas MH, Kjeldsen MJ, et al. Which seizure-precipitating factors do patients with epilepsy most frequently report? Epilepsy Behav. 2005;6(1):85-89. PMID: 15652738.
  2. Dell’Aquila JT, Soti V. Sleep deprivation: a risk for epileptic seizures. Sleep Sci. 2022;15(2):245-249. doi:10.5935/1984-0063.20220046(PMID: 35755914)
  3. American Epilepsy Society. Companion Guide: The Critical Role of Healthy Sleep Habits for People with Epilepsy. https://aesnet.org/
  4. International League Against Epilepsy (ILAE). Sleep-related hypermotor (hyperkinetic) epilepsy (SHE). epilepsydiagnosis.org. https://www.epilepsydiagnosis.org/syndrome/adnfle-overview.html
  5. Frauscher B, von Ellenrieder N, Dubeau F, Gotman J. EEG desynchronization during phasic REM sleep suppresses interictal epileptic activity in humans. Epilepsia. 2016;57(6):879-888. doi:10.1111/epi.13389
  6. Kwon K, Lee Y, Kim MS. Beyond circadian patterns: mechanistic insights into sleep-epilepsy interactions and therapeutic implications. Cells. 2025;14(17):1331. doi:10.3390/cells14171331
  7. Baud MO, Kleen JK, Mirro EA, et al. Multi-day rhythms modulate seizure risk in epilepsy. Nat Commun. 2018;9:88. doi:10.1038/s41467-017-02577-y
  8. Jo H, Choi S, Kim D, Joo E. Effects of obstructive sleep apnea on epilepsy, and continuous positive airway pressure as a treatment option. J Clin Med. 2022;11(7):2063. doi:10.3390/jcm11072063
  9. 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 2024年. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html
  10. Sheybani L, Frauscher B, Bernard C, et al. Mechanistic insights into the interaction between epilepsy and sleep. Nat Rev Neurol. 2025;21(3):177-192.