医療的ケアが必要なお子さんとご家族を支えるための法律、いわゆる「医療的ケア児支援法」が、2026年(令和8年)7月に改正されました[1]。
この改正でいちばん大きく変わるのは、支援が18歳で終わらなくなることです。法律の名前そのものが変わり、これまで対象外だった「大人になった医療的ケアの必要な方」や「重症心身障害者」も、支援の対象に加わりました。
施行は2027年(令和9年)4月1日です[1]。まだ少し先ですが、学校のこと、日中の預け先のこと、成人後の通院先のこと ―― ご家族が「そろそろ考えなければ」と感じておられることの多くに関わる改正です。ここでは、患者さんとご家族の目線から、変わるポイントを整理します。
そもそも、どんな法律だったのか
2021年(令和3年)にできた「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」は、人工呼吸器の管理や喀痰吸引、経管栄養などの医療的ケアを日常的に必要とするお子さん(医療的ケア児)と、そのご家族を社会全体で支えることを定めた法律です[2]。
この法律ができたことで、保育園や学校に看護師などを配置することが設置者の責務とされ、通園・通学の環境は少しずつ整ってきました。全国の都道府県には相談窓口として「医療的ケア児支援センター」が置かれました。
一方で、大きな宿題が残っていました。この法律が守ってくれるのは、原則として18歳未満のお子さんまでだったのです。
在宅の医療的ケア児は、20年で2倍を超えた
こども家庭庁の推計によると、自宅で暮らす医療的ケア児(0〜19歳)は、2005年の9,987人から2025年には21,496人に増えました[3]。20年でおよそ2.2倍です。
なかでも人工呼吸器を必要とするお子さんの増え方は著しく、2015年の3,069人から2025年には6,521人へと、10年で約2.1倍になりました[3]。2013年以降は12年続けて増えています。
新生児医療・小児医療の進歩によって救われる命が増えた結果であり、これはとても大切な変化です。同時に、その子どもたちが大人になっていく以上、成人期を支える仕組みも一緒に用意しなければならないということでもあります。
変わること①:18歳を過ぎても支援が続く
改正法では、法律の題名が「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」に変わりました[1]。「等」と「重症心身障害者」が加わったことが、そのまま支援対象の拡大を表しています。
新しく支援の対象になるのは、次のような方々です[1]。
- 医療的ケア児だった方で、大人になった後も日常生活・社会生活を営むために医療的ケアが欠かせない方
- 大人になってから、日常生活・社会生活を営むために医療的ケアが欠かせなくなり、そのために自立した生活を営むことが難しい状態にある方
- 重症心身障害者(重度の知的障害と重度の肢体不自由が重なっている方)。こちらは医療的ケアの有無を問いません
そして、この改正の核心といえるのが、新しく設けられた第11条の2です[1]。
国及び地方公共団体は、医療的ケア児及び重症心身障害児が十八歳に達した後も切れ目なく地域で必要な医療を受けられるよう必要な措置を講ずるものとする。
「18歳になったら小児科では診られません、でも次の受診先が見つかりません」という、いわゆる**「18歳の壁」への対応が、国と自治体の責務として法律に書き込まれた**ということです。小児期に発症した病気を抱えたまま大人になる方の医療については、てんかんの成人期移行、重度障害児の成人期移行でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
基本理念にも「18歳に達した後等も、切れ目なく適切な保健医療サービス及び福祉サービスを受けながら、希望する地域において日常生活及び社会生活を営むことができるようにする」ことが加えられました[1]。「どこで暮らしたいか」という本人・家族の希望を出発点に置いた書きぶりになっています。
変わること②:修学旅行や学校行事が、条文に書き込まれた
学校に関する規定(第10条第2項)も改正されました。改正後の条文には、**「授業に出席し、及び修学旅行その他学校等の行事に参加するために必要となる」**支援という文言が新しく加わっています[1]。
これまでの条文は「保護者の付添いがなくても適切な医療的ケアを受けられるようにする」という一般的な書き方で、日々の授業のことなのか行事も含むのかは解釈に委ねられていました。ここが明文化された意味は小さくありません。あわせて、看護師等だけでなく喀痰吸引等を行える介護従事者の配置も条文に加わりました[1]。
対象となる学校の範囲も広がり、高等専門学校(1〜3学年)や専修学校の高等課程が加えられています[1]。
ひとつ、正確にお伝えしておきたいことがあります。この規定は**「学校等の設置者が必要な措置を講ずるものとする」という責務の規定**であって、保護者に付き添いを求めること自体を禁止する条文ではありません。とはいえ、国会の附帯決議でも「保護者の付添いがなくても通学できるよう、引き続き必要な支援を行うこと」と重ねて求められており[4][5]、学校と相談する際の確かな根拠になります。宿泊を伴う行事の準備についてはてんかんがあっても大丈夫!修学旅行や家族旅行を楽しむための準備も参考になさってください。
変わること③:暮らし・仕事・住まいの支援が具体的になった
日常生活の支援を定めた第11条には、次のものが具体的に書き込まれました[1]。
- 一時的に預かり必要な保護を行うサービス(レスパイト)
- 夜間に自宅で受けられる保健医療サービス・福祉サービス
- 通学等の移動の支援
- 重度訪問介護
- 福祉サービス事業所への看護師等の配置の促進
さらに、新しい条文が2つ加わりました[1]。
- 就労の支援(第11条の3) ― 在宅勤務など一人ひとりの特性に応じた働き方で就労の機会を確保すること。事業主にも、能力を正当に評価し適正な雇用管理を行う努力義務が定められました
- 住居の確保(第11条の4) ― 希望する期間入居できるグループホームなどの住まいを確保すること
「学校を卒業したあと、日中どこで過ごすのか」「親が高齢になったらどこで暮らすのか」というご家族の切実な問いに、法律が正面から向き合う形になりました。当事者・ご家族どうしが支え合う交流活動(ピアサポート)への支援と、孤独・孤立の防止も新たに規定されています[1]。
変わること④:相談窓口が身近になり、災害時の役割も加わった
これまで都道府県が設置していた「医療的ケア児支援センター」は、**「医療的ケア児等支援センター」**に名前を変え、次のように強化されます[1][6]。
- 設置できる主体が広がる ― 都道府県に加えて、政令指定都市・中核市・特別区などでも設置できるようになります。お住まいの市が窓口を持てるようになる、ということです
- 相談できる方が広がる ― 進行性の病気などにより、これから医療的ケアが必要になることが相当程度見込まれる方も対象に含まれます
- 災害時の役割が加わる ― 個別避難計画の作成への協力、災害時に市町村と連携して情報を提供することが業務に追加されました
また、地域の関係者が集まって課題を話し合う**「医療的ケア児等支援地域協議会」**が新たに法律で位置づけられました。協議がまとまった事項については、参加した構成員がその結果を尊重することとされています[1]。
変わること⑤:「住む場所で差がつく」ことをなくす仕組み
同じ病状でも、住んでいる市町村によって受けられるサービスが違う ―― これは長く指摘されてきた問題です。改正法では、国と地方公共団体が地域格差の是正のために各地域の支援の状況を検証し、必要な措置を講ずることが定められました(第22条)[1]。あわせて、講じた施策を公表することも規定されています[1]。
利用できる制度の全体像についてはてんかんと社会福祉制度にまとめていますので、あわせてご覧ください。
これから決まること
改正法は2026年7月31日に公布されましたが、施行は2027年4月1日です[1]。実際の運用を左右する政令や自治体向けの通知は、2026年8月末の時点ではまだ出そろっていません。
2026年8月19日には、国の審議会に対して、支援センターの設置主体を広げるための政令の制定方針と、障害福祉サービスの基本指針の改正内容が示されました[6]。都道府県については、これまでの「協議の場」に代えて医療的ケア児等支援地域協議会を設置することを基本とする、という方向も示されています。
もうひとつ、この改正には静かですが重要な条文があります。**「医療的ケア児等及び重症心身障害者の数の把握」**を国と地方公共団体の責務に加えた第21条第2項です[1]。
先ほどご紹介した推計値は、いずれも18歳未満のお子さんについてのものです。18歳を過ぎて医療的ケアを受けながら暮らしている方が全国に何人いらっしゃるのか、実は公的な推計値がありません。支援の対象になったのに、人数が分からない ―― まずそこから始めましょう、というのがこの条文の意味です。医療的ケアの必要度を判定する基準を定期的に見直すことも、あわせて定められました。
なお、この法律は施行後3年を目途に、実施状況を踏まえて見直すこととされています[1]。
いま、ご家族ができること
施行までにはまだ時間がありますが、準備は今からでも始められます。
- お住まいの都道府県の医療的ケア児支援センターに、一度つながっておく ― 改正後は市区町村レベルでも窓口が置ける可能性があります。まずは現在の窓口に相談しておくことで、変化があったときに情報が届きやすくなります
- お子さんが18歳になる時期から逆算して、通院先を主治医と相談し始める ― 成人期の受診先の調整には時間がかかります。中学生頃から少しずつ話題にして相談しておくと安心です
- 災害時の個別避難計画を確認する ― 人工呼吸器や吸引器を使っている場合、停電時の備えを含めて、市区町村の担当窓口と一緒に見直しておきましょう
- 学校との相談には、条文を根拠にできる ― 修学旅行や学校行事への参加が明文化されたことは、話し合いの土台になります。ただし、現実的な人的リソースの問題もありますので、お子さんの安全を第一に考え、実現可能な方法を相談していきましょう
そして、成人期への移行を見据えて、成人期に必要な医療を仕分けし、移行先として必要な診療科を洗い出して地域で受け皿となる医療機関を探しておく必要があります。小児神経疾患や難治性てんかんの場合は小児神経専門医やてんかん専門医が主治医として引き継ぐことも選択肢としてあり得ます。移行期医療は事前準備が重要です。成人期への移行についてご心配なことがあれば、まずは早めに主治医に相談を始めておきましょう。
参考文献
- 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第77号・令和8年7月31日公布、令和9年4月1日施行)/衆議院 第221回国会 衆第29号 議案本文 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g22105029.htm
- 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/503AC0000000081
- こども家庭庁「医療的ケア児の現状について(令和8年8月時点)」(厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」及び社会医療診療行為別統計による推計)https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/care-ji-shien
- 衆議院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会 附帯決議(令和8年7月10日)
- 参議院 こども・子育て・若者活躍に関する特別委員会 附帯決議(令和8年7月22日)https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/current/f440_072201.pdf
- 社会保障審議会障害者部会(第158回)/こども家庭審議会障害児支援部会(第21回)資料1-1「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の改正を踏まえた基本指針の改正等について」(令和8年8月19日)https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001740121.pdf
- こども家庭庁「医療的ケア児等とその家族に対する支援施策」(改正法の概要・新旧対照表・公布通知)https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/care-ji-shien

