側頭葉てんかん ― 成人で最も多い焦点てんかん

側頭葉てんかん ― 成人で最も多い焦点てんかん てんかん

「ぼーっとして呼びかけに反応しない時間がある」「急に強い恐怖感や、見たことがあるはずのない景色を“前にも見た気がする”と感じる」「気がつくと口をモグモグ動かしていたと家族に言われた」――こうした症状が繰り返し起きていませんか?

側頭葉(そくとうよう)てんかんは、成人で最も多い焦点(しょうてん)てんかんであり、特徴的な症状が「ただの疲れ」「不安発作」「物忘れ」と誤解されて、診断がつくまでに数年かかることも珍しくありません[1][2][3]。

この記事では、患者さんとご家族に知っておいていただきたい側頭葉てんかんの症状・原因・診断・治療を、国際抗てんかん連盟(ILAE)や日本てんかん学会のガイドラインに基づいて解説します[1][2][3][4]。

側頭葉てんかんとは ― 成人で最多の焦点てんかん

てんかんは脳のどの部分から発作が起こるかによって大きく分類され、脳の一部から発作が始まるものを「焦点てんかん」と呼びます。てんかん全体の分類についてはてんかんの分類の記事で詳しく解説しています。

側頭葉てんかんは、左右どちらかの側頭葉(耳の奥にあたる脳の部分)に発作の出発点(焦点)がある焦点てんかんで、成人の焦点てんかんの中で最も頻度が高いタイプです[1][2]。さらに、**抗てんかん発作薬で発作が十分におさえられない(薬剤抵抗性)**ことが多いてんかんとしても知られており、成人てんかんのうちおよそ3分の1が薬剤抵抗性を示すと報告されています[2]。

側頭葉てんかんは、発作の出発点の場所によってさらに2つに分けられます[1][3]。

  • 内側側頭葉てんかん(MTLE):海馬や扁桃体など、側頭葉の内側の構造から発作が起こるタイプ。最も多く、海馬硬化を伴うことが多い
  • 外側(側頭葉新皮質)てんかん:側頭葉の外側の表面から発作が起こるタイプ

特に**「海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん」は、日本では指定難病141**にも登録されています[4][5]。

どんな症状が出るのか

側頭葉てんかんの発作は、ご本人にしかわからない感覚(前兆)から始まり、徐々に意識が遠のくのが典型的なパターンです[1][3]。

発作の前兆(オーラ)― ご本人だけが感じる症状

意識が保たれている発作の初期に、次のような特徴的な感覚が現れます[1][3][6]。

  • みぞおちから胸へこみあげる不快感(上腹部不快感):最も多い前兆
  • 強い恐怖感や不安感:理由なく恐怖が突然襲ってくる
  • 既視感(デジャビュ):初めての場所や状況なのに「前にも経験した」と強く感じる
  • 未視感(ジャメビュ):見慣れたはずの場所が知らない場所のように感じる
  • 嗅覚・味覚の幻覚:実際にはない、こげくささや変な味を感じる
  • 吐き気、動悸、立ち毛、皮膚の鳥肌などの自律神経症状

これらは数十秒から1〜2分で消えることもあり、本人も「気のせい」「疲れているだけ」と思い込んで受診が遅れがちです[3][6]。

意識が遠のく発作(焦点意識減損発作)

前兆に続いて、または前兆なしで突然、次のような状態になります[1][3][6]。

  • 動作が止まり、ぼーっと宙を見つめる(行動停止と一点凝視)
  • 口をもぐもぐ動かす、舌なめずり、つばを飲み込むなどの自動症
  • 手で衣服やシーツを意味もなくいじる、ボタンをまさぐるなどの手の自動症
  • 左右どちらか片方の手足が突っ張る(焦点と反対側のジストニー肢位)
  • 呼びかけても反応しない/反応が鈍い

発作は通常1〜3分程度続き、その後はもうろう状態(発作後もうろう)となり、何があったか覚えていないことが多いのも大きな特徴です[1][3][6]。発作中の出来事を記憶できないことが、診断の重要なヒントになります。

全身けいれんに移行することも

側頭葉から始まった発作が脳全体に広がると、両側強直間代発作(いわゆる「全身けいれん」)に進展することがあります[1][2]。発作時の対応についてはてんかん発作時の対応突然のけいれん、その時どうする!?の記事もあわせてご覧ください。

原因 ― 海馬硬化が代表的

側頭葉てんかんの原因は多岐にわたりますが、手術が検討された症例の検討では次のような頻度が報告されています[7]。

  • 海馬硬化:約36%(最多)
  • 腫瘍:約24%
  • 皮質形成異常:約20%
  • そのほか、外傷、感染症(脳炎・髄膜炎の後遺症)、低酸素性脳症など

特に内側側頭葉てんかんでは、幼少期(4〜5歳以下)の熱性けいれん(特に長く続いた重積型)や脳炎、頭部外傷の既往が関係していると考えられています[3][4][5]。すべての熱性けいれんが将来のてんかんにつながるわけではありませんが、長時間続いた発作は注意が必要です。詳しくは熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023の記事を参考にしてください。

診断 ― 脳波とMRIが必須

側頭葉てんかんの診断には、脳波検査頭部MRIが有用です[1][3][4][5]。

脳波検査

側頭葉てんかんでは、**耳の前から側頭部(前側頭部)**にてんかん性異常波(棘波・鋭波など)が記録されることが特徴です[3][4]。発作の最中に脳波がとれれば、発作の起源を特定する強力な情報になります。場合によっては睡眠中の脳波(睡眠賦活)や長時間ビデオ脳波が必要になります。脳波の詳しい仕組みや検査の流れは脳波検査の記事をご覧ください。

頭部MRI

海馬硬化を伴う場合、MRIのFLAIR画像で海馬が小さく萎縮し、信号が高く(白く)描出されることが診断の決め手となります[4][5]。3テスラ以上の高磁場MRIで「てんかんプロトコル」と呼ばれる撮像方法で撮ると、わずかな海馬の異常も見逃しにくくなります[1]。

そのほか、必要に応じてFDG-PET検査(発作のない時に側頭葉の代謝が低下していないかを見る検査)や神経心理検査(記憶や言語の機能評価)が行われます[1][3]。

💡 「もしかしててんかんかも?」と感じる症状の見分け方は、もしかしててんかんかも? ― てんかんの発作を疑う症状の記事をご覧ください。

治療 ― 薬物療法と外科治療

第一選択は抗てんかん発作薬

焦点てんかんの治療では、ラモトリギン、レベチラセタム、ラコサミド、カルバマゼピン、ペランパネルなどの抗てんかん発作薬が第一選択になります[2][8]。最初の1剤でおよそ4〜5割の方が発作消失に至ります[2]。

ただし、海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんでは、お薬だけで長期に発作消失する確率は29〜41%程度と報告されており、ほかのてんかんと比べて薬剤抵抗性となる割合が高いことが知られています[1][2][7]。

お薬の選び方や副作用については、てんかんの治療 ~治療の考え方とお薬による治療~抗てんかん発作薬の副作用とそのマネジメントもあわせてご参照ください。

薬で止まらないときは外科治療を検討

2剤以上の抗てんかん発作薬を適切に使っても発作がおさえられない場合、薬剤抵抗性てんかんと判断されます[2]。一側性の海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんでは、**外科治療(前側頭葉切除術+扁桃体海馬切除術)**が極めて有効で、手術後1〜2年で約60〜80%の方が発作消失するという報告が多数あります[3][4][7][9]。20年以上の長期追跡でも、約65%の方が発作消失を維持しています[9]。

「お薬で止まらないから一生発作と付き合うしかない」と諦める必要はありません。早めにてんかん専門医に相談し、外科治療の適応評価を受けることが大切です。非薬物治療の選択肢全般についてはてんかんの治療 ~お薬以外の治療~もご覧ください。

合併症への配慮

側頭葉てんかんでは、記憶障害(特に左側=言語優位側の場合は言語性記憶、右側の場合は視覚性記憶)や、うつ・不安などの気分の問題が併存することが少なくありません[1][3]。診断・治療と並行して、こうした側面のケアも重要です。気になる症状があれば、ひとりで抱え込まず主治医にご相談ください。

日常生活で気をつけたいこと

  • 服薬の自己中断は厳禁:飲み忘れや勝手な減量は重積発作のリスクを高めます
  • 十分な睡眠と規則正しい生活:睡眠不足は発作の代表的な誘因です
  • アルコールは控えめに:飲酒・断酒どちらも発作を誘発しうる
  • 運転免許:発作の状況によって取得・更新の条件が異なります。主治医と必ず相談してください
  • 家族や周囲への共有:発作時の対応を家族・職場で共有しておくと安心です

こんな時はてんかん専門医への相談を

次のような場合には、てんかんを専門とする医師(てんかん専門医)や専門外来のある医療機関への相談を検討されるとよいでしょう。

  • 上記のような前兆や、ぼーっとする・口をもぐもぐ動かす発作が繰り返し起きている
  • 「不安発作」「過呼吸」と言われて治療を続けているが症状が改善しない
  • 2剤以上のお薬を使っても発作がおさえられない
  • 発作時の記憶がない、発作の様子を家族に指摘されたことがある
  • 外科治療の適応について意見を聞いてみたい
  • 進学・就職・運転・妊娠出産など、ライフイベントを見据えた計画を立てたい

側頭葉てんかんは、診断さえつけば治療の選択肢が広く、外科治療まで含めれば多くの方で発作消失が目指せるてんかんです。早期に正しい診断を受けることが何より大切です。

まとめ

  • 側頭葉てんかんは成人で最も多い焦点てんかん[1][2]
  • 上腹部不快感・既視感・恐怖感などの前兆に続いて、ぼーっとする・口の自動症を伴う発作が特徴[1][3]
  • 原因として最も多いのは海馬硬化で、幼少期の熱性けいれん重積などが関係する[3][4][7]
  • 診断には脳波検査と頭部MRIが必須[3][4]
  • 治療は抗てんかん発作薬が基本だが、薬剤抵抗性の場合は外科治療で約60〜80%が発作消失[3][7][9]
  • 気になる症状があれば、てんかんを専門とする医療機関へのご相談をおすすめします

てんかんという病気そのものについてはてんかんとはもあわせてご覧ください。


参考文献

  1. Kumar A, Maini K, Arya K, et al. Mesial Temporal Lobe Epilepsy. StatPearls [Internet]. National Center for Biotechnology Information (NCBI), 2024. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK554432/
  2. 日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編. てんかん診療ガイドライン2018/追補2022. 医学書院. https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_tuiho_2018_ver2022.html
  3. 日本てんかん学会ガイドライン作成委員会. 内側側頭葉てんかんの診断と手術適応に関するガイドライン. https://jes-jp.org/pdf/mtlesurg.pdf
  4. 難病情報センター. 海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(指定難病141). https://www.nanbyou.or.jp/entry/4439
  5. 厚生労働省. 海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん 概要・診断基準. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000085377.pdf
  6. International League Against Epilepsy (ILAE). Operational classification of seizure types and epilepsies. https://www.ilae.org/guidelines/definition-and-classification
  7. Blümcke I, Spreafico R, Haaker G, et al. Histopathological findings in brain tissue obtained during epilepsy surgery. N Engl J Med. 2017;377(17):1648-1656. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1703784
  8. Kanner AM, Ashman E, Gloss D, et al. Practice guideline update summary: Efficacy and tolerability of the new antiepileptic drugs. Neurology. 2018;91(2):74-81. https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000005755
  9. Mathon B, Bielle F, Samson S, et al. Long-Term Outcome of Temporal Lobe Epilepsy Surgery in 621 Patients With Hippocampal Sclerosis. Front Neurol. 2022;13:833293. https://www.frontiersin.org/journals/neurology/articles/10.3389/fneur.2022.833293/full

本記事は2026年5月時点の情報に基づき、患者さんおよびご家族向けの一般的な解説として作成されたものです。個別の症状・治療については主治医にご相談ください。