てんかんのある方のご家族にとって、「発作が止まらない」という状況は最も不安を感じる場面ではないでしょうか。通常のてんかん発作は数十秒から数分で自然におさまりますが、発作が長時間続いたり、短い発作を繰り返してその間に意識が戻らなかったりする状態を「てんかん重積状態(じゅうせきじょうたい)」と呼びます。これは救急対応が必要な医学的緊急事態です。
この記事では、患者さんとご家族に知っておいていただきたい「てんかん重積状態」について、最新の国際基準および日本のガイドラインに基づいて解説します[1][2][3]。
てんかん重積状態とは ― 「5分」がカギ
国際抗てんかん連盟(ILAE)は2015年、てんかん重積状態を次のように定義しています[1]。
発作を終わらせる仕組みが破綻したか、異常に長く続く発作を引き起こす仕組みが働いた結果として生じる状態。長く続けば、神経細胞の障害など長期的な影響をもたらす可能性がある。
この定義には、臨床的に重要な2つの時間的な目安があります[1][2]。
- t1(5分):全身けいれん発作が5分以上続く場合、もはや自然にはおさまりにくく、治療を開始すべき時点
- t2(30分):発作が30分以上続くと、脳に長期的なダメージ(神経細胞の死、神経回路の変化など)が生じるリスクが高まる時点
つまり、「5分以上続くけいれん発作は重積状態とみなして救急対応を始める」というのが現在の世界的な標準です[1][2]。
てんかん重積状態の種類
大きく2つに分けられます[1][2]。
1. けいれん性てんかん重積状態(CSE)
全身がけいれんしたり、手足が強く突っ張り続けるタイプで、見た目でわかりやすいのが特徴です。特に全身強直間代発作が止まらない状態は、最も緊急性が高く、脳への影響も大きくなります。
2. 非けいれん性てんかん重積状態(NCSE)
一見けいれんは目立たないのに、脳波上ではてんかん発作が続いている状態です。ぼんやりしている、呼びかけに反応しない、意識がもうろうとしている、などの症状が長時間続きます。「けいれんがないから大丈夫」とは限らない点が重要で、脳波検査による診断が必要になります[2]。
💡 てんかん発作そのものの種類については、てんかんの分類の記事もあわせてご覧ください。
治療はどのように進むのか
日本神経学会の「てんかん診療ガイドライン2018」では、治療は段階的に進めることが推奨されています[2]。
第1段階(発症から5〜30分)
- ベンゾジアゼピン系薬剤の静脈注射が第一選択。具体的にはジアゼパム、あるいはミダゾラム[2]
- 静脈ルートが確保できない場合は、ジアゼパム注腸、ミダゾラムの頬粘膜・鼻腔・筋肉内投与が行われます[2][3]
- 2025年からは、在宅・病院前対応として使えるジアゼパム点鼻液も日本で使用可能になりました[3]
第2段階(ベンゾジアゼピンで止まらない場合)
- ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタム、ミダゾラム持続投与などを使用します[2]
- これらは入院のうえ、慎重に点滴で投与されます
第3段階:難治性てんかん重積状態
- 抗てんかん薬の標準治療で止まらない場合、ICUでの全身麻酔(ミダゾラム、プロポフォール、チオペンタールなど)が必要になります[2]
第4段階:超難治性てんかん重積状態
- 全身麻酔下でも24時間以上続く極めて稀で重篤な状態。多職種による集学的治療が必要です[2]
重積状態になりやすい状況・誘因
以下のような状況では、重積状態のリスクが高まります。
- 抗てんかん薬の飲み忘れ・自己中断
- 発熱、感染症、睡眠不足、過労、飲酒
- ドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群など、もともと重積を起こしやすいてんかん症候群
- 小児では発熱に伴うけいれん重積(熱性けいれん重積状態)も重要で、熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023に詳しい対応が示されています[4]
服薬の中断は、重積状態を引き起こす最も避けるべき要因の1つです。自己判断で薬を減らしたり中止したりせず、必ず主治医にご相談ください。
こんな時は迷わず救急車を
ご家族・周囲の方に覚えておいていただきたい「119番のタイミング」は次のとおりです[2][3]。
- けいれん発作が5分以上続いている
- 短い発作を繰り返して、発作と発作の間に意識が戻らない
- 初めての発作(てんかんの診断がついていない方)
- けいれんは止まっても、長時間意識がもうろうとしている
- 呼吸の異常、顔色不良、強い外傷や嘔吐物の誤嚥がある
発作時の具体的な対応や発作時レスキュー薬の選び方については、てんかん発作時の対応、突然のけいれん、その時どうする!?、発作時レスキュー薬の選び方の記事も参考にしてください。
発作の「時間を計る」
ご家族ができる最も重要な行動の1つは、発作が始まった時刻をスマートフォンで確認することです。医療スタッフが到着した時に「何分続いているか」を伝えられると、治療方針が大きく変わります。
予後 ― 早期対応で救える
てんかん重積状態の予後は、発作を止めるまでの時間と原因となる基礎疾患に大きく左右されます[1][2]。早期に適切な治療が開始されれば多くは回復しますが、30分、1時間と長引くほど、脳への影響や死亡率は上昇します[1]。
「早く気づいて、早く救急要請する」 ― これが最も重要です。
てんかん専門医への相談を
てんかん重積状態は、日ごろからの予防と備えで大きくリスクを減らせます。主治医の先生との定期的なご相談に加え、次のような場合にはてんかんを専門とする医師(てんかん専門医)や専門外来のある医療機関への相談を検討されるとよいでしょう。
- 発作の持続時間が以前より長くなっている、または回数が増えている
- 複数の抗てんかん発作薬を使っても発作が十分にコントロールできない
- レスキュー薬(頓用の発作止め)の使い方に不安がある
- 発作の種類がはっきりしない、非けいれん性の発作が疑われる
- 学校・職場・旅行先などでの発作時対応プランを整えたい
てんかん専門医のもとでは、発作タイプの正確な診断、最適なお薬の選択、ご家族への具体的な対応指導、脳波検査の計画などを総合的にサポートしてもらえます。てんかんの基礎については、てんかんとはもあわせてご覧ください。
まとめ
- てんかん重積状態とは、5分以上続く、または繰り返して意識が戻らないてんかん発作のこと[1][2]
- 5分以上続いたら救急要請が現在の国際標準
- 治療は段階的に進み、早期の治療開始が予後を決める
- 日ごろの服薬管理とレスキュー薬の備えが重要
- 気になる症状があれば、かかりつけの先生やてんかん専門医にご相談を
参考文献
- Trinka E, Cock H, Hesdorffer D, et al. A definition and classification of status epilepticus – Report of the ILAE Task Force on Classification of Status Epilepticus. Epilepsia. 2015;56(10):1515-1523. doi:10.1111/epi.13121. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/epi.13121
- 日本神経学会「てんかん診療ガイドライン」作成委員会 編. てんかん診療ガイドライン2018. 第8章 てんかん重積状態. 医学書院, 2018. https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epilepsy/Part1_chapter8.html
- 日本小児神経学会 小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン改訂ワーキンググループ 編. 小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023. 診断と治療社, 2023. https://www.childneuro.jp/about/6436/
- 日本小児神経学会. 熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023. 診断と治療社, 2023. https://www.childneuro.jp/about/6442/
- International League Against Epilepsy (ILAE). Status Epilepticus (patient-care information). https://www.ilae.org/patient-care/status-epilepticus
- 日本神経学会. てんかん診療ガイドライン2018 追補版 2022. https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_tuiho_2018_ver2022.html
本記事は2026年4月時点の情報に基づき、患者さんおよびご家族向けの一般的な解説として作成されたものです。個別の症状・治療については主治医にご相談ください。

